MIPS Technologyを買収し、MIPSアーキテクチャのIPライセンス供給を行っていた米Wave Computingは、事業不振に伴い複雑な経緯を経てMIPSのビジネスを事実上中国のCIP Unitedに売却したという話は、吉川明日論先生の2020年9月17日の記事に詳しいが、そのMIPSというかWave Computingは11月9日から12日にオンライン開催となった「electronica 2020」の中のEmbedded Forumの基調講演にて、MIPSコアにRISC-Vの対応を追加することを明らかにした。
この発表を行ったのは、少なくとも直前までの肩書はWave Computingのイスラエルオフィスに在籍するItai Yarom氏であるが、electronicaにおける肩書は“Director Sales & Solutions, MIPS”で、ひょっとするとMIPS部門売却に伴ってMIPS側に移籍したのかもしれないが、メールアドレスそのものは現在もWave Computingのままとなっている。同氏のWave Computing時代の肩書は“Managing the Israeli Office and Technical Expert in Automotive”であり、その前はMIPS TechnologyでDirector, Sales and Solutionsとなっており、その意味ではMIPSベースの自動車向けソリューションを中心に活動しておられた方の様だ。
さて前置きが長くなったが、MIPSは現在でもそれなりに多くの顧客をまだ確保してはいる。2019年ですら10億個のチップが出荷されたされたそうで、その意味ではまだ死んだアーキテクチャという訳ではない(Photo01)。
そんなMIPSであるが、いきなりMIPSコアにRISC-Vを載せる、という決断を発表した(Photo02)。
もちろんMIPSそのものを捨てるつもりはなく、今後もMIPSをサポートしてゆくが、これと並行してRISC-Vの命令も解釈・実行できるようにするという意味合いである。
その最初の製品が「I8500」(Photo03)である。基本的には現行製品であるMIPS I-Classの7000シリーズの延長というよりは、その一つ前の6000シリーズの延長にあるという感じである。またセキュリティに関しても強化されており、マルチドメインベースのセキュリティを実装するほか、新たに定義されたと思われるMIPSecureというセキュリティ実装に準拠しているとする。このあたりは今回詳細は不明である。いずれ製品が出てくる頃には、もう少し詳細が明らかになるだろう。
そのI8000シリーズだが、ハイエンドのI8800、ミドルレンジのI8500、ローエンドのI8100の3種類のIPが現時点で用意されていることが今回明らかにされた(Photo05)。
また性能に関しては、MIPS I8600をCortex-A53/A55/A65と比較した結果がこちら(Photo06)である。
さすがに今さらCortex-A53はないだろうと思うが、Cortex-A55と比較しても2.5倍効率が良く、Cortex-A65と比較しても2倍の効率、というのはなかなか凄まじいものである。もっともコアの性能というか効率だけで決まるものでは無い部分だけに、RISC-V陣営への鞍替えで、今後MIPSアーキテクチャが生き残っていけるかどうか、非常に楽しみな動きになってきた。