東京理科大学(理科大)は11月9日、ナノインプリントにおけるレプリカモールド表面の水の濡れ性を示す接触角を測定することで、離型剤や離型性を有するレプリカモールドの転写寿命を短時間で評価可能な方法を開発したと発表した。
同成果は、理科大基礎工学部電子応用工学科の谷口淳 教授、オーテックスの日和佐伸氏らの共同研究チームによるもの。詳細は、「Nanomaterials」に掲載された。
紫外線硬化樹脂を用いたナノインプリント転写技術である「光ナノインプリントリソグラフィ」(UV-NIL)は、少ないステップ数でナノスケールの構造を作製でき、低コストでナノ材料を大量生産することが可能だ。
UV-NILで用いられるマスターモールド(鋳型)は、シリコンなど高価な材料からできていることが多い。その制作には多くの時間と労力が必要とされるため、樹脂の付着による損傷を避ける必要があり、マスターモールドには離型剤コーティングが施されて使用される。
ただし、ナノインプリントの繰り返し転写回数が多くなると離型性が悪くなり、最終的にはマスターモールドが劣化(損傷)に至ってしまうという課題がある。そこで、マスターモールドのレプリカであるレプリカモールドを作成し、これを鋳型として使用することでマスターモールドの劣化を防ぐ方法が一般的には採用されている。
それに加え、モールドの寿命を知ることも、損傷を防ぐ上では重要だ。しかし、これまでのところマスターモールドの寿命を予測する方法はなく、代わりにレプリカモールドの耐久性が評価の対象となってきた。レプリカモールドの耐久性を評価する方法には、その表面自由エネルギーを反映する水の接触角がこれまでは利用されてきた。
そこで共同研究チームは今回、線状のパターンを持つ基材では線に対して並行方向と垂直方向では接触角が異方性を示すことに着目。レプリカモールドとして樹脂に線状のパターンを転写して、線に対して並行な方向と垂直な方向の接触角を測定することにした。この2方向の接触角を解析することで、レプリカモールドの寿命を予測できると考察したのである。レプリカモールドとして、共同研究チームが開発した紫外線硬化樹脂が用いられた。それを鋳型として繰り返しUV-NIL転写が実施された。
転写され並行な線の溝は、毛細管現象で広がりが早くなる。それにより、線に平行な方向の接触角はすぐに低くなり、線に対して垂直な方向の接触角は緩やかに低下するという差が利用された。この2方向の接触角の解析により、レプリカモールドの寿命予測ができることが突き止められたのである。
今回の研究で提案された方法により、実際に樹脂の付着が生じるまで転写を繰り返す必要なく、離型剤や離型性を有するレプリカモールドの転写寿命が推定できるようになるという。モールドの寿命を短時間で評価可能にする同手法は、ナノインプリントにおける離型剤やレプリカモールドなどの材料開発において有用な方法になると期待されるとしている。