東京大学 生産技術研究所(東大生研)は11月5日、金属ナノ粒子の形や向きを調節すると、光を照射した時に一方向に強い散乱光を生み出すことができるが、その際、散乱光とは逆向きの力がナノ粒子に働くことを発見し、ナノ粒子を整列させた微小マシンを作り、マシンに働く力の方向を精密に制御することに成功したことを発表した。
同成果は、東大生研の田中嘉人 助教、同 志村努 教授らによるもの。詳細は「Science Advances」(オンライン速報版)で公開された。
光はエネルギーのほかに運動量を持っていることが知られている。この運動量は方向を伴う物理量で、光を鏡に照射すると反射するが、光の運動量の変化の反作用として鏡に光圧が生じる。この力は非常に小さいため、人間では感知することはないが、ミクロの世界では力を発揮することから、2018年のノーベル物理学賞でもある光ピンセットなどに活用されてきた。
光ピンセットは、微小マシンを駆動する方法として応用範囲を拡げてきたが、照射するレーザー光を集光・走査することによって光圧の方向を制御するため、光の回折による限界から波長スケールより微細な操作ができないという課題があった。
今回の研究は、レーザー光を集光したり操作する従来手法とは異なり、受けて側の金属ナノ粒子の局在プラズモン共鳴による光の運動量の制御することで、光の回折限界を超えた分解能で光圧の配列を精密にデザインする新しいアプローチの実現に挑んだものだという。
具体的には、高精度な電子線リソグラフィ技術を活用することで、局在プラズモン共鳴による光の運動量の制御を実施。Z方向から伝播する光を2本の長さを制御した金属ナノロッドペアに照射すると、光の散乱とは逆向きの(面内)光圧がロッドペアに働くことを発見。これにより、ロッドペアの向きで光圧の方向を制御できることが示されたとする。
実験としても、金ナノロッドペアを配置し、ライン状の光を照射したところ、光の道に沿って走るリニアモーターカー(ミクロな潜水艦)的な走行体ができること、ならびに光の波長スケールより小さいナノ空間で光圧の位置と向きを精密にデザイン可能であることが確認され、さまざまな光駆動ナノモーターの創出につながることが示されたという。
さらに、照射する光の波長によって、運動の方向を制御するといったことも可能であることも確認。これにより、ロッドペアの配列によりナノ空間にナノモーターを精密にデザインできることが明らかになったとする。
今回の成果について、研究チームは、光ピンセットと異なり、光の回折による限界や、レーザー光の集光・走査の必要性を排除することができ、かつ原理的には太陽光でさえ駆動させることができるため、光により物体を操作する技術にパラダイムシフトを起こし、光で駆動するナノロボットやナノ工場の実現も期待できるようになるとしており、今後は、極微量物質の分析を可能にする超小型化学分析システム(Lab on a chip)の流体制御ポンプ、バルブ、ミキサーなどへの展開、生体分子モーターと同程度の大きさの力を発生することができるので、分子モーターが関わる生体機能の計測・制御への展開などへと発展させていき、さらにはドラッグデリバリのようなナノ医療への展開も期待できるようになってくるとしている。