リコーは11月2日、創業100周年に向けてリコーが掲げる2036年ビジョン「“はたらく”に歓びを」の実現に向け、はたらく人がどのように時に歓びや幸せを感じるのか、といったことを研究する場所として、次世代ワークプレイス「3L(サンエル)」を開設した。
3Lの名称は、リコーの創業の精神である「三愛精神」の英語表記「3 Loves」にちなんで名付けてられており、サンエルという呼び方については、日本企業的なものを大切にしたかったからとのことで、海外スタッフからも好評だという。
研究施設でもあり、ワークプレイスでもある「3L」
なぜリコーがこのような施設を立ち上げたのか。その背景について、3Lの立ち上げの中核人物である同社経営企画本部 経営企画センター Fw:D PT 兼 グローバル人事グループの稲田旬氏は、「これまでのリコーは、仕事に対するプロセスやワークフローの効率化・自動化から対価を得ていたが、これからを考えたときに、働く人そのものに価値を提供し、人らしく働いてもらう、という価値を提供していくことを目指す必要があると考えていた。3Lはそれを示す場所として設立された」と、説明する。
では、3Lではどういったことが行われるのか。稲田氏は「人にとって、大きな命題である働くと人の関係性のこれからを研究し、更新していくことを目指す」とする。「大切にしたいのは働く人の創造性、関係性、個性が発揮された状態であること。その時、働く人の感情はどういったもので、そうした時に出力される成果物とはどういったものかに興味がある」(稲田氏)とのことで、3Lの運営チームは、ワークプレイスに来てくれる人に、実際に3Lを使ってもらって、新しい価値を作り出してもらって、それを受けて、さらに3Lに改良を加え、価値を高めていくことを目指すとする。
また、3Lはワークプレイスであるため、実際にそこで働いてもらう人が必要となるが、そこは基本的にオープンプラットフォームという位置づけで、趣旨に賛同する社内外のチームに参加してもらう形を想定している。すでに本当に人間らしい働きかたはどのようなものかを、ニューズピックスと組んで「共創プログラムチーム」として立ち上げているとする。一般の他企業の興味を持ってくれた人などは、まずは「ゲスト」として専用アプリ「3L」に個人情報を登録をすることが参加の第一歩となる。
そうして登録した人が、実際に3Lに訪れるようになり、その中で、プロジェクトベースで課題を立てて、新しい価値の創出を目指す「プロジェクトチーム」を結成し、活動を開始。共創プログラムチームが、そうしたプロジェクトチームの活動を検証していく、といった横のつながりが生まれることも目指すとしている。「自律的に動ける人たちが社内外から集まって、プロジェクトベースで課題解決に向けたチームを作って、新しい価値を創っていく。そうした本気のチームが複数同居した時、化学反応が起きるのではないか、というコミュニティを形成することことが価値となる」(稲田氏)と、3Lはワークプレイスでもあり、研究施設でもあることを強調する。
リモートワーク時代に人が集まる価値とは?
新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大を機に一気に広まったリモートワーク。アフターコロナの時代において、人が集まって仕事をする意義はどこにあるのか? 3Lの構想が始まった2018年にはなかったポイントだが、新型コロナの問題が解決されない限り、これからの社会で働いていく、という上では避けることはできない社会課題となってくる。
3Lでも、その点については重要視しており、集まる価値を高めるキラーコンテンツの1つとして次世代会議空間「RICOH PRISM(リコー プリズム)」が設置されている。
このリコー プリズムの開発を先頭に立って指揮してきた同社経営企画本部 経営企画センター Fw:D-PTの村田晴紀氏は、「創造性を発揮するうえで大切なのは、周囲の環境」ということを前提に、そのコンセプトが「デジタルアルコール」であり、実際にお酒を飲んでしまうと、仕事にならないが、それに近いような心が楽しいと感じる状況をデジタルの力で作り出せないか、という考えで開発を進めてきたとする。
「いつでも創造的な気持ちになれる環境があればおもしろいのではないか。プロジェクトチームに、創造的な気持ちをより高めるサービスを提供して、繰り返し、それを使ってもらい、それをセンシングすることで、より良いサービスへと進化させるべく、改良サイクルを回し、その流れで創造というものの理解を進め、より創造力を高めるものへと発展させていきたい」(村田氏)。
実際のに入ってみると分かるが、机があって、椅子があって、といった会議室の様相は呈していない。詳しくは、ぜひ体験してもらいたいが、参加者はセンサを搭載した自分の分身となる手のひらに載るサイズのシリコン製のぷにぷにとした感触を楽しめる「キューブ」を片手に全身を使って、会議を行うこととなる。
利用の流れとしては、「イントロダクション(はじまりの儀)」から始まり、会議の目的別に用意されたアプリを使って実際の会議を実施。そして最後に「アウトロダクション(おわりの儀)」を行って、部屋を後にするといったものが基本的なスタイルとなる。
現在、リコ- プリズムを実際に体験するには3Lを訪問する必要があるが、利用料は無料とのことである(3Lアプリへの登録は必要)。実際の利用者のイメージとしては、以下の3点を挙げている。
- 「RICOH PRISM」を使って創造的なアウトプットを出したい方
- 「RICOH PRISM」を使って創造性に関する研究をしたい方
- 「RICOH PRISM」を使った開発をしてみたい方。
どういった人に参加してもらいたいのか?
3Lを利用するにあたって稲田氏は、「前提として、3Lに通ってもらう必要がある」とするが、3Lで行う内容に関する基準は、今のところは設けていないという。「3Lの価値は、はたらく人なので、何を成し遂げようとしているのか、というところにコミットがあるだけ。どういった業界であるといったことも問わないが、何かを成し遂げたいと思っている人を、3L運営チームとして支援できればと思っている」(同)と、何らかの課題の解決をしたいというモチベーションを持っている人が利用に向いているとする。
また、実際に参加してみたものの、あまり3Lに来なくなっていく人も出てくる。そうした場合、「数か月の1回しか来ないといった人に対しては、テクノロジーの力を使って、メンバーステータスをゲストに変更させてもらうとか、そういったことも考えている」とする。
なお、3Lとしての最終目標だが、来場者数やチーム数にこだわるつもりはなく、いかにして人が何かを創ろうとしたとき、その人の状態がどういったものであるのか、という部分をデータとして蓄え、解析していくことにあるとする。その結果、歓びをもって働くということが、どういったものかが見えてきて、それをベースとして新たなソリューションを生み出せれば、としている。
これまでのリコーと言えば、OA機器をオフィスで活用してもらう、というのがイメージとしてあった。しかし、同社の社長執行役員である山下良則氏は、新型コロナの流行前から、会社の変革を掲げてきていたが、それが具体的な姿として見せるまでには至っていなかった。今回、研究機能を有したワークプレイスである「3L」が正式にオープンしたことで、具体的な会社として変わっていく方向性が、デジタルサービスを活用して、働く人そのものに寄り添う、といった形を見せることができるようになった。稲田氏は、まずはスモールサクセス、と語るが、サクセスが積み重なった将来的には、海外でも同様の拠点を開設し、地域ごとの働く人への歓びの提供につなげていきたいと語る。3Lはまさに、そんな未来のリコーの基礎を創る場所だといえるだろう。