デジタル通貨へと進む世界の潮流

2020年10月に入って、新聞などのマスコミでは、中国の中国人民銀行(中央銀行)が10月23日に、法定通貨の人民元にデジタル通貨(仮想通貨)も加える法制度を固めたというニュースが報じられました。2022年2月に開催予定の北京冬季オリンピックまでにデジタル通貨の発行を目指す動きだそうです。

中国政府は暗号資産(仮想通貨)に対して、中国の民間企業などでのデジタル通貨の発行を禁じ、貨幣の供給が不安定になるのを防ぐ構えだそうです。「中国はデジタル通貨の流通に向けた実証実験では日米欧を先行し始めていますが、その法整備でも先手を狙う」と、この新聞記事では解説しています。

同様に、10月21日には世界に3億4000万人の利用者を持つオンライン決済大手の米国のペイパル・ホールディングス(本社はカリフォルニア州)が「暗号資産(仮想通貨)による支払いサービスを始める」と発表しています。最新の情報技術を利用した新たな金融サービスであるフィンテックによる仮想通貨市場への参入が相次ぐなかで、「決済大手であるペイパル・ホールディングスが参入したことによって、仮想通貨による決済利用の裾野が広がる可能性が高まっている」と、この記事では報じています。

2009年に運用が開始された仮想通貨のビットコイン(bitcoin)の登場以降、派生の仮想通貨も次々と誕生し、従来の国が発行している法定通貨と仮想通貨を交換する仮想通貨取引所と呼ばれる仮想通貨交換業者も登場し、仮想通貨の利用・保有が急速に広がっています。しかし、この仮想通貨を利用しているのは、現実にはまだ一部の方・企業などとも考えられています。

こうした暗号資産(仮想通貨)の動向に対して、東京大学生産技術研究所(東大生研)の松浦幹太 教授に、その基盤となっているブロックチェーンについての研究開発の現状などを聞いてみました。

ブロックチェーンを活用していくために必要なものとは?

仮想通貨の登場に対して、東大生研の松浦教授の研究グループは、その背景になる暗号からネットワークや経済までの情報セキュリティについて早くから研究開発を行ってきました。こうした基盤研究に加えて、現在の仮想通貨の基盤技術になっているブロックチェーンについての研究開発に対しては、実証研究を進める組織として、2017年7月に慶応義塾大学SFC研究所と共同で国際産学連携体としてBASEアライアンスを設立しています。実学も当然、目指しています。

このBASEアライアンスでは「オープンな議論・研究開発・実証実験により、国際的な産学連携によって推進することを目的とした」と宣言して活動を始めています。松浦教授はBASEアライアンスの中心メンバーとして、精力的にブロックチェーン技術全般についての研究開を進め、「その実験実証するテストベットの構築や運用を図って来ました」と説明しています、

仮想通貨の基盤技術になっているブロックチェーンとは何かという多くの人が抱く疑問に対して、「その前提としては、インターネット・テクノロジー(IT)教育自体のレベルを上げる必要があり、一般の方に向けた具体的な説明はなかなか難しいのが実情」との前置きをまず説明します。

その上で、「ブロックチェーンとは、“ひとこと”で説明すれば、要するに『タイムスタンプ』という電子署名を補助する電子時刻印が分散台帳の基盤技術になっています」と表現します。

  • ブロックチェーン
  • ブロックチェーン
  • ブロックチェーンはいわゆる電子時刻印を用いた分散台帳で、改ざんが難しいことがポイントの1つとなっています (提供:松浦教授)

取り引き情報である処理情報に電子時刻印を押して、これを公表し、インターネット上で“有志”による目撃を可能にする随時公開検証を可能にすることが、仮想通貨の運用と監査にかかるコストを低減し、実用域にしているそうです。

この電子時刻印を用いた分散台帳は、「仮想通貨以外に小口電力売買管理やサプライチェーン管理、医療情報システムなどへの利用が考えられている」と拡張の可能性を説明します。実際に、松浦研究室では「米国ハワイ州の牧羊事業者や中央アメリカのホンジェラスのコーヒー農園でのサプライチェーン管理などを共同研究した経緯がある」と説明します。

  • ブロックチェーン

    松浦研究室が行った研究の例 (提供:松浦教授)

新型コロナウイルス対策を構築している現在は、「日本の医療機関の負荷を平準化すべく医療情報分野での分散台帳であるブロックチェーン利用技術の確立も求められている」と指摘します。

松浦幹太

研究者プロフィール

松浦幹太(まつうら・かんた)
東京大学 生産技術研究所 教授

1992年 東京大学工学部 電気工学科卒業
1994年 東京大学大学院工学系研究科 修士課程修了
1997年 同博士課程修了
同年 東京大学生産技術研究所 助手
1998年 同講師
2002年 同助教授
2007年 法令改正により同准教授
2014年 東京大学生産技術研究所 教授
現在に至る