大阪大学などの研究グループは、障害を起こした末梢神経に直接巻いて再生を促す薬剤含有ナノファイバーシートを開発したと発表した。手術に応用できる規模での製造にも成功し、近く臨床試験を始める。国内に数十万人の患者がいるとされる手根管症候群など末梢神経障害の新たな治療法として期待される。

この研究グループは、大阪大学大学院医学系研究科の田中啓之特任教授、物質・材料研究機構の荏原充宏グループリーダーや日本臓器製薬の研究者らで構成。「エレクトロスピニング」と呼ばれる特殊な技術を使って「ポリ(ε-カプロラクトン)」(PCL)と呼ばれる生分解性ポリマーを超極細繊維の不織布状態にし、さらに神経の再生に重要な因子となる薬剤をシートに含ませた。

研究グループによると、このシートは体液は通す一方、神経にダメージを与えるマクロファージなどの炎症性細胞は通さないのが特長。このため、手術時に神経に巻くことにより、術後の炎症反応から神経を保護できる。また、柔軟性に富み、しなやかなさわり心地があり、神経への刺激を最小限に抑え、必要なサイズに切って神経に貼ったり巻き付けたりすることができる。

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    神経再生効果を持つ薬剤を含有させたナノファイバーシート(大阪大学などの研究グループ提供)

薬剤はシートの表面ではなく、超極細繊維の1本1本に均一に含まれるため、長期間にわたり一定の速度で放出される。PCLは1年以上かけてゆっくりと生分解するよう設計してあり、術後の抜去は不要という。

田中教授らがこのシートを座骨神経損傷の実験用マウスに使用したところ、約6週間で神経の軸索が再生し、運動機能と感覚機能が回復した。こうした成果を受けて日本臓器製薬が研究グループに参加し、臨床応用できる高品質で安定したシートの製造にめどをつけた。末梢神経の外科的手術が必要な患者を対象に年間約5万件の手術が可能となったという。臨床試験は2022年6月まで実施する予定だ。

末梢神経は、脳や脊髄などの中枢神経から手足、目、皮膚、内臓など全身に広がる。脳の命令を手足に伝えたり、目や耳、皮膚などで得た刺激を脳に伝えたりして極めて大切な働きをする。これまでも末梢神経障害治療用の医療製品はあったが、傷ついた神経が完全に切断された場合だけが対象。素材が硬く取り扱いが難しいなどの問題があり、神経の再生を促進する効果はなかった。

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