米国航空宇宙局(NASA)やSETI研究所などの研究チームは2020年10月29日、宇宙望遠鏡「ケプラー」の観測データから、銀河系(天の川銀河)にある太陽と似た恒星の約半数に、表面に液体の水をもった岩石惑星が存在する可能性があるという研究成果を発表した。

この推定が正しければ、銀河系には3億ものハビタブル(生命が居住可能)な系外惑星が存在する可能性があり、そのうちのいくつかは、太陽から30光年以内という比較的近い距離にある可能性もあるという。

研究成果をまとめた論文は論文誌「The Astronomical Journal」に掲載された。

  • ケプラー452b

    地球から見てはくちょう座の方向に約1400光年離れた位置にあるG型主系列星、ケプラー452を公転している系外惑星「ケプラー452b」の想像図。太陽に似た恒星のハビタブル・ゾーンにある、地球に近いサイズの系外惑星と考えられている (C) NASA Ames/JPL-Caltech/T. Pyle

銀河系にある太陽と似た恒星の約半分に液体の水をもった岩石惑星が存在か?

ケプラー(Kepler)は、NASAが2009年に打ち上げた、太陽系外にある惑星(系外惑星)を発見することを目指した宇宙望遠鏡である。

ケプラーは、ある恒星のまわりを回る系外惑星が、望遠鏡から見て恒星の前を横切った際に、恒星の明るさがわずかに暗くなることを利用して系外惑星を検出する、「トランジット法」と呼ばれる方法で観測を行った。この方法は、惑星の大きさや質量、密度などを推定することもでき、さらに惑星の大気によって変化する恒星の光を分析することで、その大気の組成などもわかる。

ケプラーは延長ミッションを繰り返したのち、2018年に運用を終了したが、収集された膨大なデータはいまなお分析が続いている。これまでに2800個以上の系外惑星が確認されており、そのうち数百個は、惑星系の中で、水が液体の状態で惑星の表面に安定的に存在できる「ハビタブル・ゾーン」の中に存在することがわかっている。また、数千個の候補が確認待ちとなっているほか、さらに数十億個の系外惑星が存在することも示唆されている。

そして今回、NASAやSETI研究所、ブリティッシュ・コロンビア大学などの研究者からなる研究チームは、ケプラーの観測データから、太陽と似たような年齢と温度の星を中心に、±1500℃の範囲にある恒星を対象とし、そこを回る地球半径の0.5倍から1.5倍の大きさをもつ系外惑星を調べ、そこから岩石の多い惑星(岩石惑星、地球型惑星)を絞り込んだ。

その結果、保守的な見積もりでも、銀河系にある太陽のような恒星の約半分に、地表に液体の水を保持することができる岩石惑星が存在しうるという推定が導き出されたという。この場合、銀河系には3億ものハビタブルな系外惑星が存在し、そのうち4つは太陽から30光年以内に、最も近いもので約20光年距離にある可能性があるということになる。また、楽観的な見積もりに基づいた計算では、約75%にまで増えるという。

これまでも、銀河系にあるハビタブルな系外惑星の数を見積もろうという研究はあったが、今回の研究では、その精度を高める新しい要素が取り入れられた。

従来の研究では、恒星からの距離に大きく依存する形で、その系外惑星がハビタブルかどうかを推定していた。しかし今回の研究では、距離に加え、恒星の温度や、恒星から出ている光の種類、さらに系外惑星が吸収する光の種類の関係も考慮した結果、ハビタブル・ゾーン内にあるかどうかを従来より正確に見出すことができたという。

これはケプラーのデータに、欧州宇宙機関(ESA)の位置天文学用の宇宙望遠鏡「ガイア」が収集した、恒星のフラックス、つまり一定の時間に特定のエリアで放出されるエネルギーの総量と、その恒星から惑星に降り注ぐエネルギーの量についてのデータを組み合わせることで可能になったとしている。

研究チームを率いたNASAエイムズ研究センターのSteve Bryson氏は「ケプラーはすでに数十億個の系外惑星があることを示唆していましたが、この研究により、それらの惑星のかなりの数が岩石惑星で、なおかつ水が液体の状態で存在できるハビタブル・ゾーンの中にあるかもしれないことがわかりました」と語る。

「もちろん、(液体の水があるかどうかについて)まだ最終的な結論を出すことはできず、またそもそも、惑星表面に水があるかどうかは、生命の有無を示す数多くのある要因のひとつに過ぎません。しかし、ハビタブルな可能性をもつ系外惑星の数について、これほど高い信頼性と精度を持って計算し、その結果を示せたことは、非常にエキサイティングです」。

  • ケプラー452b」

    宇宙望遠鏡ケプラーの想像図 (C) NASA/Ames Research Center/W. Stenzel/D. Rutter

ドレイク方程式の解に一歩近づく?

また、研究チームのひとりである、SETI研究所のJeff Coughlin氏は「この研究は、銀河系に存在するハビタブル・ゾーン内の系外惑星の数について、信頼性の高い推定を提供するために、必要なすべてのピースが考慮がされた初めてのものです。これは、『ドレイク方程式』を解き明かす上で重要な項となります」と語る。

ドレイク方程式とは、私たちの銀河系に存在する、人類とコミュニケーション可能な文明の数を推定するために用いられる方程式で、1961年に米国の天文学者フランク・ドレイク氏が提唱した。多くの不確定要素があるため、数学的に厳密な方程式というよりは、宇宙生物学上の思考実験として考えられているが、その精度を高めようという努力は続いており、SETI(地球外知的生命体探査)研究の多くの指針ともなっている。

今回の研究で計算上推定された3億もの系外惑星をすべて見つけ、それが本当にハビタブルなのか、生命がいるのかを探したり、そしてドレイク方程式の答えを導き出したりするのには、まだまだ時間がかかりそうではある。

しかし、現在NASAでは、ケプラーの後継機となる「TESS (Transiting Exoplanet Survey Satellite)」を運用している。TESSはケプラーよりはるかに広い範囲を観測し、より多くの系外惑星を発見することを目指している。

また、ESAとスイス宇宙局が昨年12月に打ち上げた宇宙望遠鏡「CHEOPS」は、ケプラーなどが検出・発見した系外惑星を、さらに詳しく観測することを目的としている。

さらに、NASAやESAでは、系外惑星の発見や詳しい探査を目指した計画がいくつも立案、検討されており、中国が2016年に建設した世界最大の電波望遠鏡「FAST」でも、地球外知的生命体探査が行われている。

私たちがこの銀河系で一人ぼっちなのか、それともそうではないのかを知るためのゴールに、少しずつ近づきつつあることは間違いない。

  • ケプラー452b」

    ケプラーの後継機として打ち上げられたTESSの想像図。ケプラーよりはるかに広い範囲を観測し、より多くの系外惑星を発見することを目指している (C) NASA's Goddard Space Flight Center---

参考文献

・[2010.14812] The Occurrence of Rocky Habitable Zone Planets Around Solar-Like Stars from Kepler Data
・About Half of Sun-Like Stars Could Host Rocky, Habitable-Zone Planets | NASA
How Many Habitable Planets are Out There? | SETI Institute
Drake Equation | SETI Institute