欧州宇宙機関(ESA)は2020年10月28日、2014年にチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に着陸した探査機「フィラエ」が、着陸時に2回目にバウンドした場所を特定したと発表した。その際に取得されたデータから、彗星の氷の内部がカプチーノの泡より柔らかいことも判明した。
論文は同日発行の論文誌「Nature」に掲載された。
フィラエが2回目にバウンドした場所を発見
フィラエ(Philae)は、ESAが開発した彗星着陸機で、2004年に親機である「ロゼッタ」とともに打ち上げられた。そして2014年11月12日、目的地であるチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に着陸した。
フィラエは当初、「アギルキア(Agilkia)」と名付けられた場所への着陸を目指していたが、着陸装置が正常に機能せず、彗星表面で2回バウンドしたあと、最終的に「アビドス(Abydos)」と名付けられた場所に落ち着いた。
フィラエはその後、彗星に関する観測データを送ってきたものの、着陸場所の地形やフィラエの姿勢の関係上、太陽電池に光が十分に当たらなかったこともあり、着陸から約57時間後にはバッテリーの充電がなくなり、冬眠状態に入ることになった。その後、散発的ながら信号が地球に届くことはあったものの、探査活動を再開するまでには至らず、2016年7月28日には運用が断念された。
また、通信こそロゼッタを経由し地球に届いたものの、当初予定していた地点から外れた場所に着陸したことから、着陸からこの当時まで、フィラエの正確な着陸地点や、着陸後のフィラエの姿は不明なままだった。しかし、ESAの研究チームは2016年9月、ロゼッタが撮影した画像のなかからフィラエを発見することに成功した。
同年9月30日にはロゼッタも運用を終了し、彗星に衝突した。その一方で、研究チームはその後も、フィラエが2回目にバウンドした場所を探し続けていた。そして今回、ついに特定することに成功した。
フィラエの着陸地点を特定し、また今回の特定も成し遂げたESAのLaurence O’Rourke氏は、「フィラエに搭載されたセンサーは、(2回目にバウンドした際に)地面を掘ったことを示していました。つまり、その下に隠された、何十億年も前の太陽系ができたころの氷が露出している可能性が高く、2回目に着地した場所を見つけることが重要だったのです」と語る。
発見に際しては、ロゼッタの高分解能カメラの情報のほか、フィラエに搭載されていた磁力計ブームの情報も重要となった。このブームはフィラエ本体から48cmほど突き出ており、その磁気データから、ブームが氷の中に突き刺さった際の時刻を推定することができたという。また、着地時のフィラエの加速度を推定することにも役立ったほか、ロゼッタの磁力計が同時に収集したデータと照らし合わせることで、フィラエの姿勢を決定することもできた。
その結果、フィラエは2回目のタッチダウン地点で2分近くを過ごし、また転がるように動き、少なくとも4回、機体の各所が彗星に接地していたことも判明。ロゼッタが撮影した画像からは、フィラエの上面が氷の中に約25cm沈んだときにできた痕跡がはっきり確認できる。またフィラエの磁力計ブームのデータから、フィラエがこの窪みを作るのに3秒かかったことがわかったという。
このフィラエによって作られた跡の部分の形が、上から見たときに頭蓋骨を連想させたことから、この地域は「頭蓋骨上の尾根(skull-top ridge)」と名付けられた。
彗星の氷の内部はカプチーノの泡より柔らかい
また、フィラエが転がり、彗星の氷を覆っていた炭素質の塵が削られたことで、その下の氷が露出。この氷は、それまで太陽の放射線から守られていた、つまり宇宙風化を受けていない、彗星が形成された当時の氷であり、フィラエのバウンド前と後にロゼッタから撮影した画像を分析したところ、暗闇の中で輝く光点として現れていることも確認された。
さらに、フィラエのデータから、彗星の氷の内部の柔らかさについても測定することにも成功。岩塊(ボルダー)の中の氷の粒の間にどれだけの空隙があるかという空隙率は約75%と推定された。
この値は、以前に別の研究で推定された彗星全体の空隙率とも一致しているという。またこの値は、地表から地下約1mまでの大きさのスケールでは、どこでも均質であることが示されており、この「頭蓋骨上の尾根」のボルダーは、約45億年前に形成された彗星の地表から地下約1mまでの内部の、平均的な状態を表しているとしている。
O’Rourke氏は「フィラエが踏みつけるという単純な行為によって、何十億年も前からあるこの古代の氷の粉の混合物は非常に柔らかく、カプチーノの泡や泡風呂の泡、海岸の波の上にある泡よりもふわふわしていることがわかりました」と語っている。
ロゼッタ計画のプロジェクト・サイエンティストを務めるMatt Taylor氏は、「これは、フィラエが着陸時に歩んだ旅の物語のギャップを埋めるだけでなく、彗星の性質についても教えてくれる、素晴らしい成果です」と語る。
「とくに、彗星の地面の強さを理解することは、将来の着陸ミッションにとって非常に重要です。彗星の内部がふわふわしているとわかったことは、着陸装置の設計や、サンプルの回収機構の仕組みなどについて、本当に貴重な情報となります」。
参考文献
・ESA - Philae’s second touchdown site discovered at ‘skull-top’ridge ・4.5-billion-year-old ice on comet 'fluffier than cappuccino froth' - DLR Portal
・‘Like froth on a cappuccino’: spacecraft’s chaotic landing reveals comet’s softness
・ESA - The Rosetta lander