Samsung Electronicsのファウンドリサービス事業部門であるSamsung Foundryは2020年10月28日、昨年、米国シリコンバレーにて開催したプライベートカンファレンス「Samsung Advanced Foundry Ecosystem(SAFE) Forum」をオンライン形式で、「SAFE Forum US 2020」として開催した。

同カンファレンスは、Samsungとパートナー企業とのエコシステムを強固なものにすることを目的として開催されるもので、Samsung Foundryのエコシステムの中核メンバーであるCadence Design Systems、Synopsys、Mentor Graphics/Siemensはじめ数十社がバーチャルな講演や展示を行った。ハイライトである基調講演は、Intelの上級副社長(SVP)であるRaja Koduri氏が、「1000x More AI Compute by 2025(2025年までにAIコンピューティングが千倍速くなる」と題して行った。

同氏は現在、Intelのチーフアーキテクトで、アーキテクチャ、グラフィックス、ソフトウェア部門のゼネラルマネージャーである。2017年にIntelに入社する前は、ライバルのAMDのRadeon Technologies GroupのVP兼チーフアーキテクトやAppleにてグラフィックアーキテクチャのディレクターなどを歴任してきた。

Koduri氏は、「2025年までにデータセンタからエッジまでAIコンピューティング能力を1000倍に向上させ、エクサスケールコンピューティングを実現するには、アーキテクチャからトランジスタ、パッケージングに至るまで、多数の階層でのアプローチが必要である」と述べた。多くの参加者は、IntelとSamsung Foundryとの協業や生産委託がらみの話も含まれると予測していたようだが、そのような話題にはまったく触れなかった。

IntelがSamsungにCPU生産を委託する可能性はあるのか?

今回のフォーラムの開催に併せて、先端プロセスの開発でAMDに後れを取っているIntelが、Samsungのファウンドリ事業部門にCPUの生産を委託する可能性がでてきたのではないかと一部の韓国メディアが報じている。実際としては、IntelはTSMCへ製造委託することが有力視されているので、韓国メディアによる願望という線が強い。そのため、内容も「IntelのBob Swan CEOはコスト意識が高いようなので、TSMCに比べSamsungが安価で生産するなら十分に検討するに値する選択肢」だとか、「IntelのKoduri SVPは以前、Samsungの器興事業所を訪問したことがあり、そこに今回のイベントに参加することで、両社の関係はより一層厚くなる」といったことを韓国半導体業界関係者の声として伝える程度である。

AppleにとってSamsungはスマートフォンビジネスでライバルであるため、プロセッサの製造委託をしたくはないだろうが、IntelにとってのSamsungはCPU販売の顧客であるから製造委託を行う可能性がないとは言えない。

TSMCとSamsungの2社購買にした方が、コスト低減を図れるかもしれないし地政学的なリスク対策にもなるだろう。しかし、最大の問題は、SamsungがTSMC同様に、先端プロセスで大量生産ができるのか? ということである。

複数の海外メディアは、SamsungはEVUリソグラフィを20工程前後導入する必要のある先端プロセスでIntel同様に開発試作時点で歩留まりが低迷していると伝えている。Intelはその事実を公表したが、Samsungは公表していないのでその真相は不明である。先般、Samsungの李副会長がASML本社を訪問し、EUV露光装置の確保に向けた交渉を行ったと伝えられているが、これが何を意味するのか -TSMCに続き、EUVによる先端デバイスの大量生産に乗り出すのか、低歩留まりのために多くのEUV露光装置を備えなければ数量を確保できないのか- 明らかになっていない。

Samsungは、ファウンドリを含むシステム半導体に総額133兆ウォンを投資して2030年にこの分野で世界トップになるというビジョンを宣言しているので、現在のようなTSMC独り勝ち状態を何とか切り崩していく必要がある。IntelのCPU生産を受託できるか否かは2030年に向けたビジョン実現に向けた試金石になるだろう。