アマゾン ウェブ サービス ジャパンは10月27日、企業のクラウド移行に関する記者説明会を開催した。説明会では、クラウド移行を支援する同社の施策を紹介するとともに、サントリーグループの担当者が登壇し、同グループのグローバルにわたるクラウド移行の取り組みについて説明した。

AWSのクラウド移行支援の方向性

AWS ジャパン 技術統括本部長 執行役員 岡嵜禎氏

初めに、AWS ジャパン 技術統括本部長 執行役員の岡嵜禎氏が、クラウド移行を支援する同社の施策について説明した。岡嵜氏は、CEOのアンディー・ジャシー氏が昨年の年次イベント「re:Invent 2019」で「トランスフォーメーションを推進している企業の共通事項として挙げた以下の4点が、クラウドを移行する上で重視しているポイントと述べた。

  • シニアリーダーシップチームの強い決意と協力体制
  • トップダウンでのアグレッシブなゴール設定
  • 人材の育成
  • 最後までやり切る

さらに、クラウド移行においては、「アーキテクチャ/システム開発」「運用統合/最適化」「セキュリティ/コンプライアンス」「IT戦略/ビジネス効果」「ヒト・組織/文化・風土」「ガイドライン/計画」の6つの視点が重要だという。これらのポイントはテクニカルなものと非テクニカルなものに分類できるが、岡嵜氏は「テクニカルな課題は世界中で同じ課題を持つ人がおり、解決策を探しやすい。一方、クラウド移行における課題の7割が非テクニカルなものであり、企業によって状況が異なるため、自社にあった解決策を見つけるしかない」と述べた。

300社、4万人超ユーザーが利用するIT基盤をクラウドに

サントリーホールディングス BPR・IT推進部部長 城後匠氏

続いて、サントリーグループのクラウド移行に関する説明が行われた。初めに、サントリーホールディングス BPR・IT推進部部長の城後匠氏がグループ全体の戦略について述べた。同グループは300社、従業員4万人超から成る大規模企業だが、当然、そのIT基盤も大規模だ。今回、同グループは発注、売上予測、コンシューマー向けサイト、顧客データ管理などに関連する1000以上のサーバを含むすべてのシステムをAWSのクラウドに移行する。

サントリーグループはヨーロッパ、アジア、日本、オセアニア、アメリカの5つのリージョンから構成されているが、各リージョンにプライベートクラウドとAWSのハイブリッドデータセンターを配置し、各社の業務を最寄りのリージョンに移行していく。移行が不可能なもののみプライベートクラウドで運用していくという。セキュリティ、ネットワーク、データセンターをグローバルで統合することで、ITインフラに関するコストを削減し、品質とセキュリティレベルの底上げ、M&A時の対応の早期化を狙っている。

  • サントリーグループのグローバルITインフラ統合のイメージ

グローバルITインフラ統合のプロジェクトは2019年にスタートした。城後氏によると、プロジェクトには海外の拠点のメンバーも組み入れたという。移行作業で得られるノウハウを生かすことを踏まえ、プロジェクトは日本が先陣を切って開始し、2019年7月から2020年7月にかけて、すべての環境を移行した。2020年第2四半期より、日本のプロジェクトをもとに、各地域で移行を始めている。

  • 「グローバルITインフラ統合」のスケジュール

先陣を切った日本、オンプレミスとクラウドの違いに苦労

サントリーシステムテクノロジー 取締役 基盤サービス部長 加藤芳彦氏

日本の取り組みについては、サントリーシステムテクノロジー 取締役 基盤サービス部長の加藤芳彦氏が説明した。日本においては、一部のシステムをクラウドネイティブ化して移行し、残りのシステムはリフト&シフトで移行し、その後、最適化を行ったという。移行はリスクの高いシステムから行われた。

加藤氏は、移行する際に早く決めておくべきことを、「移行後の構成」「移行方法」「移行対象」に分けて教えてくれた。「予想以上にシステム間連携の作業に時間がかかってしまったほか、クラウドとオンプレミスの違いについて、もう少し詳しく調べてよかったと感じた。また、サーバの棚卸しに時間がかかってしまい、構成管理や資産管理の重要性を痛感した」(加藤氏)

  • 「グローバルITインフラ統合」の日本のスケジュール

  • クラウド移行にあたり、早く決めておくべきこと

また、加藤氏は設計において苦労した点として、ストレージとアクセス制御を挙げた。オンプレミスでは高性能なストレージを用意していたことで、問題が回避されていたが、AWSの環境ではこれまでとは異なるストレージの容量設計が求められるため、AWSならではのノウハウが必要となったそうだ。アクセス制御に関しても、オンプレミスでは不要な権利を設定していくが、AWSでは許可する権利を設定していくため、時間がかかったという。

加藤氏は、日本のクラウド移行におけるメリットとしては、「ITインフラの稼働率の向上」「ITインフラ環境提供のリードタイムの短縮」「ITインフラにかかるコスト削減」「運用の効率化と継続的改善」「標準化によるITサービスのレベルアップ」を挙げた。

なお、個人的には資産管理から解放されたメリットが一番大きかったそうだ。「数値化されていないが、身軽になった分、資産管理にまつわるコストの削減も大きい」と加藤氏は語った。

ちなみに、日本のすべてのシステムをAWSに移行し、シンガポールと日本にあったデータセンターをシャットダウンすることで、インフラストラクチャおよび運営コストを25%削減したという。

今後は、グローバルからのデータをすべて集めるデータレークをAmazon Simple Storage Services (Amazon S3)に構築することが計画されている。