早稲田大学(早大)と静岡大学は10月27日、カーボンナノチューブ(CNT)の新たな成長方法を開発し、従来の最長記録よりも7倍長い14cmというCNTフォレストの成長に成功したと発表した。
同成果は、早大理工学術院総合研究所の杉目恒志次席研究員、静岡大学工学部電子物質科学科の井上翼教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、「Carbon」に掲載された。
日本発のCNTは、軽量で強靭でありながら高い電気伝導性や熱伝導性を持つ素材だ。枯渇の心配がない炭素で高機能な素材やデバイスを実現できれば、持続可能な社会を実現する技術開発につながることからも、産業や医療への応用で大いに期待されている。
しかしCNTは長尺化が難しいことが大きな課題だ。現在CNTを成長させるには、化学気相成長(CVD)法が主に用いられており、その際にナノ粒子触媒が必要だ。基板上に触媒を担持し、高密度なCNT(CNTフォレスト)を成長させる手法は、長尺なCNTを高効率で得ることが可能な手法として有力とされている。
集合体ではない1本のCNTを50cm程度に成長させる手法は報告されていたが、CNTの数密度が10万倍以上であるCNTフォレストの成長においては最長で2cm程度であり、成長の停止が課題となっていた。そして成長の停止には、高密度に存在することに由来する触媒の構造変化が大きく関わっていることがかっていた。成長中の触媒の構造変化によって、速い成長速度と長い触媒寿命の両立が困難だったのである。
今回の研究では、CNTフォレストの成長中に起こる触媒の構造変化を止めることで、長尺なCNTを成長させることを目標とした、新たな成長方法の開発を目的とした検討が行われた。その結果、ガス中に鉄とアルミニウムの原料を微量に添加することで触媒の構造変化が遅くなり、26時間で14cmのCNTフォレストの成長に成功したという。
今回、CNTを成長させる手法として、通常のCVD法に加え、有機金属であるフェロセンを鉄の原料、アルミニウムイソプロポキシドをアルミニウムの原料として、室温にて極微量で供給する新たな手法が開発された。この手法を、近年開発されたガドリニウム添加触媒(Fe/Gd/Al2Ox)と組み合わせることで、CNTフォレストの速い成長速度と長い成長寿命の両立に成功したという。
また、従来多く用いられているホットウォール型の装置ではなく、研究チームによって独自開発されたコールドガスCVD法を用いることで、CNT上に堆積する不純物を最小限にし、純度の高いCNTの成長を可能にしたとする。
成長条件の詳細な検討から、鉄は鉄の触媒が下地に拡散しなくなる現象を防ぎ、またアルミニウムは触媒の横方向の構造変化を防いでいることが示唆されたという。これらの原料を供給しなかった場合は成長が1時間程度で止まってしまうのに対し、供給した場合は成長が26時間程度持続したとした。CNTをより効率よく長尺に成長させることができれば、新たな用途の可能性が広がると共に、大量生産によりコストダウンにもつながると考えられるとしている。
なお今回の研究により、触媒構造の変化を抑制することに成功したが、実はそのメカニズムがまだはっきりとわかっていないという。メカニズムの解明による手法の改良、またさらなる長尺成長へ向けて実験条件の探索と最適化の余地が残っているとした。今後さらなる触媒や成長手法を開発することで、より実用的な成長手法を開発していくことが課題だとしている。