マスクには新型コロナウイルスの拡散や吸い込む量を抑える効果があることを実際のウイルスを使った実験で確認した、と東京大学医科学研究所などの研究グループが発表した。これまでもスーパーコンピューター「富岳」による実験でマスクの効果が示されているが、実際にウイルスを噴霧する実験で検証した例は初めてという。
東大医科学研究所感染・免疫部門の河岡義裕教授らの研究グループは、ウイルス感染実験の専用施設(バイオセーフ―ティーレベル3)内に新型コロナウイルスを噴霧できる特殊なチャンバーを設置。ウイルスを含んだ飛まつを出す感染者役のマネキンと空気を吸い込むマネキンを50センチ離して設置し、2つのマネキンにマスクを着脱してマスクを通過するウイルス量を調べた。
研究グループは、マネキンが飛まつを出す速度は咳と同じになるよう調整。飛まつを浴びるマネキンには人間と同じように呼吸できる人工呼吸器を接続し、ウイルス量を正確に計測できるゼラチン膜でウイルスを集めた。マスクは布マスク、外科用マスク、高機能のN95の3種類を使った。
こうした実験の結果、感染役のマネキンがマスクをしない場合でも、飛まつを受けるマネキンが布マスクをするとウイルスの吸い込み量は、しなかった場合の60~80%程度、外科用マスクでは50%程度、N95を密着装着すると10~20%程度まで抑えられた。
また、感染役のマネキンが布マスクをすると、飛まつを受けるマネキンの吸い込み量は双方がマスクをしなかった場合と比べて、布マスクでは30%程度に、外科用マスクでは20%台後半から30%程度に抑えられた。
世界保健機関(WHO)や米疾病対策センター(CDC)は、感染防止のためにガイドラインを作ってマスク着用を推奨している。これまで理化学研究所が「富岳」を活用し、飛まつを防ぐマスクの効果などをシミュレーションしている。東大医科研の研究グループによると、ラテックスビーズや塩化ナトリウムを試験粒子とした実験はあるが、実際にウイルスを使ってマスクの防御効果を実証した報告はないという。
この研究は、慶應義塾大学や国立病院機構仙台医療センターと共同で行われ、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業、日本医療研究開発機構(AMED)の新興・再興感染症研究基盤創生事業の一環として進められた。研究成果は21日付の米科学誌「mSphere」電子版に掲載された。
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