資生堂は、独自に開発したリンパ管を立体的にとらえる皮膚可視化技術を活用することにより、皮膚のリンパ管の老化メカニズムを解明したこと、ならびに東京医科歯科大学との共同研究により、リンパ管の老化抑制効果を検証する試験法を開発し、薬剤の探索を行った結果、桑の根エキスに顕著な老化抑制効果を発見したことを発表した。

研究成果の一部は、2020年9月に開催された「第49回欧州研究皮膚科学会」にて発表された。

これまで、加齢によって皮膚のリンパ管の密度が減少することは知られていたが、そのメカニズムについてはよくわかっていなかった。リンパ管は、一般的に人体の余分な水分や老廃物を運搬して排出する機能が知られており、特に皮膚のリンパ管は、リンパの流れの開始点として皮膚の老廃物を回収するという特徴があり、一般的には皮膚のリンパ管は深いところに存在しているため、日常生活においてリンパマッサージのような強い刺激でしかアプローチできないと考えられていた。しかし、同社は独自技術である皮膚のリンパ管の可視化技術を用いることで、リンパ管が皮膚の直下まではり巡らされていることを確認、リンパ管が皮膚表面において重要な役割を担っていることを示唆していた。

こうした知見を踏まえ、研究チームは今回、リンパ管の老化メカニズムとして、リンパ管内皮細胞が別の細胞に変化してしまう「形質転換」に着目、リンパ管の機能改善および皮膚老化の抑制を目的とした皮膚のリンパ管の老化メカニズムに関して検討を行ったという。

  • 研究の全体像

    図1.皮膚のリンパ管の老化メカニズムを解明する研究からリンパ管の老化抑制効果を検証する研究までの全体像

その結果、加齢した皮膚では老化リンパ管が多く観察されたという(図2左)。

  • 老化したリンパ

    図2.老化した皮膚のリンパ管の様子

また、リンパ管内皮細胞の培養を続けることによって老化させたところ、リンパ管に特徴的な遺伝子の発現が顕著に減少してリンパ管の機能を持たない別の細胞へ変化することが確認されたとするほか、リンパ管内皮細胞の老化、形質転換の引き金であるトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)によって、リンパ管が漏れやすくなり、その機能が低下することも分かったとする(図4)。

  • 図3.継代老化による遺伝子発現の減少

  • 図4.TGF-βによるリンパ管の機能低下

さらに研究チームは、東京医科歯科大学との共同研究によりリンパ管の老化を抑制する薬剤を探索するためのアッセイ系を構築。その結果、桑の根エキスにリンパ管の老化を抑制する効果を見出したとする。

  • 図5.リンパ管老化抑制効果が見られた桑の根

  • 図6.桑の根エキスのリンパ管老化抑制効果

なお、資生堂では今回の研究成果を元に、リンパ管の機能に着目した皮膚老化の改善に繋がる新たな技術の開発や 皮膚可視化技術を活用して、リンパ管や血管などを通した全身と皮膚機能との関わりを解明し、新しいイノベーションを広げていきたいとしている。