京セラが協働ロボット市場に参入を表明

京セラは10月13日、ロボットの自律的な動作を実現する独自のAI活用技術を搭載した協働ロボット・システムを開発、2021年度から協働ロボット市場に参入する計画であることを明らかにした。

協働ロボットといえば、ものづくり工場でヒトに替わって部品の組み立てに活用されることなどで知られるが、もちろん同社もそうしたメイン市場も狙うが、より幅広い産業での活躍を視野に入れているという。その普及・活用の鍵を握るのがAIの活用である。

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  • 京セラが2021年度の参入を目指して開発を進めているAI協働ロボット (画像提供:京セラ)

AIでティーチング負荷を軽減

協働ロボットの動きは、どのような方法にせよプログラミングしてやる必要がある。近年、ソースコードを記述するのではなく、実際にロボットを作業順ごとに動かして覚えさせていく「ダイレクトティーチング」という手法が登場し、プログラムを書く、という作業負担は減りつつあるものの、一つひとつの動きを覚えさせていく作業も、1つの作業だけであればまだしも、さまざまな作業を行わせようとすれば、教える作業の手間も膨大になってくる。こうしたティーチング作業の負荷をAI技術を活用することで、減らそうというのが同社の協働ロボットへのAI活用の概要となる。

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    京セラのAI協働ロボットと従来型協働ロボットの違い (出所:CEATEC 2020 ONLINEにおける京セラのAI協働ロボット紹介動画。京セラの許可を得て転載)

同システムは、基本的に学習はクラウドで、推論は協働ロボットに搭載されたAIコントローラ(エッジ)で担う形となる。ハードウェアの構成は実際の作業を行うロボットアーム(協働ロボット)と、物体認識用カメラを搭載したマテリアルハンド、作業スペースの全体俯瞰を行う俯瞰カメラで構成され、作業担当者は、ピックアップ元のトレイから、AというトレイにBという部品を移動させる、といった指示をスマートフォンなどの端末経由で出してやるだけで、AIが自動的に、どの物体のどこを掴んで、どう運ぶのか、といったことを決定し、作業を行ってくれるというシステムとなっている。

AIが協働ロボットにもたらす価値

これがどういう価値を生み出すのか? 前述のとおり、ロボットの動きは誰かが何らかの手段を用いて教えないといけない。現在、協働ロボットが導入されている工場などは、そういうことを担当してくれる従業員がいる会社、ともいえる。しかし、日本の企業の99%が中小企業とも言われているように、そうした担当者を配置できる工場や企業は限られている。AIを活用することで、その手間をなくすことができるようになれば、より幅広い分野や工場で協働ロボットを活用することが可能になるというのが京セラの考え方である。

ピックアップする部品の種類が多岐におよんだとしても、クラウド上のライブラリから当該対象データをエッジに読み込ませることで、自動的に物体を認識して、ピックアップを行うことが可能となる。つまり、変種変量の段取り替えにかかる作業負荷を最小限にすることができるようになる。また、常に同じ動きであれば、プログラミングでも構わないが、協働ロボットであるがゆえに、隣で作業している人の手がロボットのアームに意図せずに近づいたり、作業スペースにモノが置かれたりする場合、そうした規定のプログラミングでは、自動停止をするといったのが常で、それでは本当の意味での共に働く、ということは実現できない。それをAIを活用することで、俯瞰カメラで状況を把握、自動的にそれを避けて作業を継続する、といったことも可能になるとする。

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  • AI協働ロボットの概要。クラウドで学習を行い、推論をエッジで行うという流れ。そのカギとなるのは俯瞰カメラとオンハンドカメラ。これらで物体や作業スペースを認識し、正確に把持を行うことを可能とする。また、ライブラリを入れ替えるだけで、品種が異なるモノの把持も可能になるという (出所:左上以外CEATEC 2020 ONLINEにおける京セラのAI協働ロボット紹介動画。京セラの許可を得て転載。左上の画像は京セラ提供)

ただし、この技術については、現状ではリアルタイム性がまだそこまで高くないため、将来的にはよりリアルタイムでの経路変更処理を可能にするような改良を進めていきたいとしている。

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    作業中に障害物が作業スペース内に入ってきたとしても、自動的に最適な回避経路を算出、それにしたがって、ぶつからないように作業を継続することができる (出所:CEATEC 2020 ONLINEにおける京セラのAI協働ロボット紹介動画。京セラの許可を得て転載)

さらに、AI活用の利点として、耐環境性の1つである光量の変化に対しても追従しやすいことが挙げられるという。窓のない半導体工場のクリーンルームなどであれば、常に一定の光量での作業なので、そこまで問題にはならないが、常に大きな扉が開けられている町工場のような現場では、朝の光と夕方の光では向きや光量が異なり、光量がカメラのしきい値を越えてしまい止まってしまうといったことも起こる。これをAI処理にすると、影を影として正しく認識できるようになるため、時間帯を気にせずに物体の把持を継続するといったことが可能になるという。

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    照明条件が変わってもAIにより、安定した稼働を可能とする (出所:CEATEC 2020 ONLINEにおける京セラのAI協働ロボット紹介動画。京セラの許可を得て転載)

ただし、まだAIとしても開発段階であり、例えば物体認識にはディープラーニングを、認識した物体の把持する位置を特定する処理にはコンピュータビジョンベースのテンプレートマッチングを活用しているが、より現場で活用できるようなツールを開発しないといけないとの考えを示している。

協働ロボットそのものは手掛けない

このように、同社のAI活用型協働ロボットの開発の方向性は、いつでも、どこでも、誰でも、利用可能な、といった言葉がふさわしいものだ。

その思想はビジネスの方向性にも表れている。というのも、協働ロボット市場に参入と言いつつも、同社自身が協働ロボットそのものを扱うつもりはないという。開発しているシステムのベースは「ROS 2」で、それで動くロボットアームであれば、対応できるようにする予定だという。ただし、カメラ部分に関しては、カメラの性能によって、物体の見え方が異なってくるため、京セラ指定のベンダのものを利用することが推奨されることとなる。京セラそのものは、AI開発ならびに、AI処理を行うAIコントローラの開発を手掛けることになるという。「京セラとしてはグループの一員である京セラドキュメントソリューションズがプリンタの設計・開発でコンパクト化や高精度制御技術を有しており、そうしたノウハウを活かしたハードウェアならびにソフトウェアをAIコントローラに盛り込む」という。

そして、ROSベースということで、オープンコミュニティも構築し、クラウド上で仕様を公開することで、パートナー企業を集めていくことを考えているという。主なパートナー対象企業はカメラ、アーム、システムインテグレーター、AI企業などを想定しており、そうした企業が連携することで、より多くの人がAI協働ロボットを活用できるようなプラットフォームを構築することが目標だという。

そのため、2021年度の協働ロボット市場参入はいわゆるオープンベータ的な意味合いで、限られたパートナーと使い勝手や課金方法などを話し合いながら決めていく段階としており、本格的な参入は2022年度との見通しを示している。この2022年度に、構築されたプラットフォームを提供することで、ビジネス規模の拡大を狙っていくこととなるが、まずはこれまで協働ロボットが入っているような既存のものづくり産業での活用を目指すとする。

京セラが見据える人とロボットが共に暮らす未来の社会

ただし、その先も見据えており、そうした伝統的な製造業のみならず、食品工場や物流、コンビニなどのコンシューマ市場での活用も将来的には実現したいとしており、物体の把持1つとっても、柔らかいものや軽いもの、重いものなど、それぞれを認識し、その都度、自動的につかみ方を変える、といったことを実現していきたいとしている。

ここからはあくまで筆者の推測となるが、そうしたさまざまなモノを自動で認識し、掴むことができるようになれば、今度は移動する手段が欲しくなるはずである。近年、物流の活発化に伴い、AGVのさらなる活用などが期待されるようになってきたり、百貨店などでフロアをまたいで、売り場まで案内してくれるロボットなどの活用が考えられるようになってきており、AGVのような自動搬送台車にロボットアームを搭載し、人と共に移動しながら作業をしてくれるロボットが登場してもおかしくはなくなってくる。

京セラは2025年に当該事業で売上高300億円を目指したいとしている。それを実現するためには、いくら中小企業での活用が進んだとしても、既存の工場での活用だけでは限界があり、サービス分野での活用も必要になってくるだろう。10月20日~23日にかけて開催されたCPS/IoTの総合展「CEATEC 2020 ONLINE」で、協働ロボットについて紹介を行った際も、同社ブースを訪れた来場者から、「こういう使い方はできないのか?」といった問い合わせが多く寄せられたとのことで、利用者側からの期待の高さも窺える。さまざまな産業分野で、人の隣に寄り添って、共に作業を行うロボット社会の実現はもう目前に迫っていると言える。