広島大学は10月22日、科学技術振興機構(JST)が公募した「研究成果展開事業 大学発新産業創出プログラム(START)」において、同大学大学院先進理工系科学研究科の西原禎文教授および事業プロモーターのユニバーサルマテリアルズインキュベーターが提案した「かご型分子を用いた超高密度不揮発性メモリおよび超低消費電力AIチップの開発」が採択されたことを発表した。

STARTとは、事業化ノウハウを持った人材(事業プロモーター)ユニットを活用し、大学発ベンチャーの起業前段階から、研究開発・事業育成のための公的資金と民間の事業化ノウハウなどを組み合わせることにより、ポテンシャルの高い技術シーズに関して、事業戦略・知財戦略を構築しつつ、市場や出口を見据えて事業化を目指すプログラムのことだ。

そして今回のプロジェクト「かご型分子を用いた超高密度不揮発性メモリおよび超低消費電力AIチップの開発」は、1nmサイズの“かご型分子”を用いた高速・高密度・低消費電力の不揮発性メモリを開発し、AI・ビッグデータ時代を支える革新的コンピュータの実現に貢献するベンチャーの設立を目指すというものである。

西原教授らの研究チームは2018年に、かご型形状を有する単一分子「プレイスラー型ポリオキソメタレート(かご型分子)」を発見した。このかご型分子は、分子内部の中心からずれた2か所にイオン安定サイトを有しており、ここにひとつの金属イオン(Mn+)が包接されているというものだ。

  • 広島大のかご型分子

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(a)分子内部に2か所のイオン安定サイトを有するかご型分子「プレイスラー型ポリオキソメタレート」(単分子誘電体)のイメージ。(b)かご型分子の分極エネルギー構造。イオン(Mn+)の位置によって、1と0の情報を表現する仕組み。(c)強誘電秩序を示さないにもかかわらず、分極ヒステリシスを示す。(d)自発分極を示す様子。右上は、かご型分子を実装したメモリデバイスのプロトタイプ (出所:広島大学プレスリリースPDF)

このかご型分子のどちらかの安定サイトにMn+イオンが停止すると、分子分極が生じる。また、電場によってイオンの位置を選択することも可能だ。つまり、かご型分子はわずかひとつで強誘電体の性質である分極ヒステリシスや自発分極を示す「単分子誘電体」になれるという特徴を持つ。

この性質により、かご型分子は包接イオンの位置によって、0または1の情報を表現することが可能だ。つまり、室温において従来の磁気メモリの10分の1から100分の1のサイズである1nmサイズの分子に1ビットの情報を格納し、安定に読み書きが可能であり、超高密度不揮発性メモリとしての活用が期待できるのである。理論的には、従来の記録密度限界値よりもさらに100から1000倍(1ペタビット/平方インチ)の高密度化が可能だという。

  • 広島大のかご型分子

    かご型分子と従来のメモリ素子のサイズと記録密度の比較 (出所:広島大学プレスリリースPDF)

今回の技術が実用化されれば、不揮発性メモリのさらなる大容量化につながり、手軽にテラバイト、ペタバイトのストレージ容量を利用できるようになるかもしれない。