日立製作所は10月23日、東京都国分寺市の同社中央研究所にある研究開発拠点「協創の森」に商用局免許でのローカル5G(第5世代移動通信システム)実証環境を開設し、5Gを使用したデジタルソリューションを現場に迅速に導入して安定的に運用できるという、高信頼なエッジコンピューティング運用技術を実証したと発表した。ローカル5G実証環境の開設は、日立アメリカの研究開発部門の一部であるシリコンバレーリサーチセンターに続くもの。
新技術は、5Gを使用した高信頼なシステムを実際の現場で実現するための基盤となるものといい、ユーザー企業の現場システムやネットワーク環境に応じて、アプリケーションの要求品質を満たす形の通信環境を提供し、その上でリアルタイム処理機能を迅速に配備可能としている。
同技術の特徴として同社は、アプリケーションに応じた信頼性の高い5G通信環境を迅速に提供する技術、柔軟なシステム運用を実現するアプリケーションの最適機能配備技術、制約のあるエッジデバイスで高負荷なリアルタイム処理を実現するエッジAI(人工知能)技術の3点を挙げる。
アプリケーションに応じた信頼性の高い5G通信環境を迅速に提供する技術に関して、ユーザー企業ごとに機器制御や映像伝送などのアプリケーションに求める通信品質は異なり、また現場では、これら複数の通信が混在しているという。
同技術では、配備するアプリケーションの通信要件と現場のネットワーク環境に応じて通信品質を保証する最適な通信方式を選択するとのこと。これにより、アプリケーションに応じた信頼性の高い5G通信環境を迅速に提供可能としている。
アプリケーションの最適機能配備技術について、アプリケーション要件を満たすためには、通信遅延を削減できる現場(エッジ)での処理と大量の演算が可能なクラウドでの処理を最適に組み合わせる必要があるが、その設計や配置には多大な工数を必要としていたという。特に現場では、スペースや電力、レイアウトなどから生じるコンピューティングやネットワークの制約があり、配置設計は複雑になっていると同社は指摘する。
同技術では、これらの制約を把握して、現場のシステム環境などに応じて最適な機能の配備と追加を容易に実施できるため、柔軟なシステム運用を可能にするとしている。
高負荷なリアルタイム処理を実現するエッジAI技術に関して、従来の現場におけるエッジデバイスにはコンピューティング性能に限界があり、画像認識などの高負荷なAI処理のリアルタイム実行が困難だったと同社はいう。
同技術では、エッジデバイスで動かすディープニューラルネットワーク(DNN、推論モデル)の認識精度を維持しつつ、不要な計算部分を削減するための学習を効率的に行うアルゴリズムにより、推論モデルを自動的に軽量・圧縮生成する。これにより、制約のあるエッジデバイスで高負荷なAI処理のリアルタイム実行を可能にするとしている。
同社は、今回開設したローカル5G実証環境で、製造ラインの機能変更が頻繁に発生する多品種少量生産の製造現場を模擬し、映像による作業者支援の検証を行ったとのこと。
その結果、機器制御や映像伝送など複数系統の無線通信が混在する環境でも、システムの運用に必要な高信頼(パケット誤り率0.0001%)で低遅延(遅延時間50ミリ秒以下)の、高品質な通信環境を構築できたという。さらに、従来1時間以上掛かっていたアプリケーションの配備を、専門的な知識無しに1分以内で実施できたとのこと。
これらの結果から、同技術により長時間の生産ライン停止を抑制でき、5Gを使用したシステムの導入・運用が容易にできることを確認したとしている。また、同技術は製造現場に加えて、多くのエッジデバイスにより高度なOT(運用技術)の技術を必要とする鉄道やプラントなどの社会インフラにおけるデジタルソリューションでの利用も期待できるとしている。
今後同社は、独自のデジタルソリューションという「Lumada」を5Gと掛け合わせることでさらに高度化し、ユーザー企業との協創を通じて、インダストリー、モビリティ、エネルギーなどの社会インフラ分野への適用を進めることで、ニューノーマル時代におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進を加速していくとのことだ。