いまだ世界的に感染拡大が続く新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。このパンデミックが引き起こした社会情勢の変化により、労働環境はパンデミック前と大きく異なる状況となっている。
ビジネスという意味では、もっとも大きいのが在宅勤務の推奨。さまざまな職種が在宅での作業を求められるようになってきた。工場での生産に携わる職種などは、そうした状況下でも、現場に出かけて行って対応する必要がある。では、分析ラボはどうだろか?。アジレント・テクノロジーは10月22日、プレスセミナーを開催し、そうした分析ラボについても、在宅勤務を併用することが可能な時代になったことを紹介した。
同社の分析によれば、分析ラボのワークフローは大きく分けて「サンプル前処理」「クロマトグラフ(LC)による測定」「データ解析」「データ解釈」「レポート化」の5つ。サンプル前処理は、溶媒の用意や器具の準備などを行うものであるため、ラボでの作業が必須となるが、サンプルを実際にLCに設置した後の処理は、分析装置が自動的に行い、結果はデータとして提供されるため、データさえ扱える環境があれば、ラボの外でもできる作業になるという。
では実際に分析ラボの仕事をラボ外で行うために必要なこととはなにか。同社市場開発部の西山大介氏は、「セキュリティの確保がクリアできないと、安全に自宅から仕事ができない。一番良い方法はIT部門に相談すること。彼らはプロなので、どうすればよいかは分かっている。味方につけることで、ラボのネットワーク化が実現できる」と、重要データを安全にやり取りするためのセキュアな環境の構築が重要であり、その道のプロの協力を仰ぐべきだとする。
また、そうして構築されたネットワーク環境で、実際にどのように自宅とラボを接続するかというと、一番簡単な方法は、装置の隣に置いた作業用PCをリモートデスクトップで自宅のPCからアクセスして利用することだという。ただし、この手法は、誰かがそのPCにアクセスしている間は、そのPCを利用できないという欠点があるとする。
また、データを利用する、という意味では、社内の既存ファイルサーバシステムを活用する方法もありだとするが、この場合はリモートで分析装置そのものを動かすことはできない、といった欠点があるとする。
そうした課題を解決するのが、同社が分析者向けに提供している「OpenLabソフトウェア」の1つである「OpenLab ネットワークシステム」となる。同ソフトは、複数の分析装置や社内外のPCを接続し、そうしたPCから同社のクロマトグラフィデータシステム「OpenLab CDS」を活用して、接続されている分析装置を操作でき、その場で解析やレポート作成までできるシステムで、これにより、どこからでも分析装置のコントロール、データ解析、レポート作成といった作業を行うことが可能となる。
ただし、導入費用は「最低限の規模で1000万円から。金額だけ見ると高いと思われるが、きちんと活用できれば、金額以上の効果を生み出せる」(同)とその効果を力説する。
また同社ではリモートワーク下でHPLCを最大限に活用することを目指したソリューションの提供も行っている。マルチメソッドアプリケーション(マルチメソッドLC)と同社が呼ぶもので、アプリケーションを変更するたびに、誰かがLCの場所まで出向き、フローを停止し、カラムを入れ替え、漏れをチェックし、フローを再び設定して次の分析を続けるといったことをするのではなく、最大で8本のカラムと26の溶媒( (12+1)×(12+1) )を定義することでシステムを設定し、制御ソフトウェアを用いて必要なカラムと溶媒を選択し、メソッドの一部とすることで、異なるアプリケーションを変更するたびにシステムとのやり取りをする必要性をなくし、複数の分析を人手を介することなく、一気に行うことを可能とするものとなっている。
これにより、例えば夕方の終業時間前に装置の設置アップを行って、人が帰った夜間、無人の環境の中、LCが連続運転して、複数の分析を実施。分析者は、この結果を翌朝、自宅で確認する、といったことが可能になるという。
すでに日本でも利用実績があるとのことで、ある製薬会社では、昼間をUHPLCの超高速モードを用いて10分で分析を行い、夜間になったらHPLCモードにして40分で、昼間と同じサンプルのデータを取り直す、といったことを行っているという。
なお、同社では、技術を活用して分析ラボの業務効率改善を推進することを目的に、自社の液体クロマトグラフィ(LC)ソリューション「InfinityLab LC シリーズ」の活用をベースとした「LC分析の生産を高めるために」という電子ブック(eBook)を作成している。2021年2月には、ニューノーマル時代にどう分析ラボは対応していくか、をテーマにした第2弾を発行する予定だとしており、今後も引き続き、分析ラボの運用効率向上を目指した取り組みを進めていくとしている。