韓国の洪楠基(ホン・ナムギ)副首相兼企画財政部長官(日本の財務大臣に相当)は10月14日、成允模(ソン・ユンモ)通商産業資源部長官(日本の経済産業大臣に相当)らとともに、半導体はじめハイテク産業で使われる素材・部品・装備(素部装)の競争力強化に向けた基本計画の技術水準をさらに引き上げることを明らかにした。
洪副首相はこの日、韓国政府ソウル庁舎で関係部署や研究機関、民間企業の代表者を集めて定例の「素材・部品・装備競争力強化委員会」を開き、企業間の協力モデル、素部装の研究開発の高度化に向けた方策、データベースによる研究ハブ構築・活用方案、素部装産業の競争力強化の基本計画などの案件を審議し、2020年4月に施行された素材部品装備特別措置法に基づいて5年単位の基本計画を確定した。
そして「素部装強国跳躍」というビジョンの下、先端素部装育成のための生産能力とサプライチェーンの強化、ハイテク企業集積を通じた先端産業のグローバルハブの構築、官民の緊密な連携システムの稼働という3つの重点戦略が決定された。
同副首相は「今回の審議・承認により、企業の需要に合わせた、R&D(研究開発)、資金、人材・インフラ、環境・労働規制の特例などを細やかに支援する予定である。今回の協力事業が上手く推進されると、2025年までに約1300億ウォン規模の民間投資と約1000人規模の新規雇用が創出されるだろう」と述べている。
また、基本計画が着実に実施されれば、2025年までに「フォーブス・グローバル2000に掲載される韓国素部装企業数を現状の11社から20社に増やし、先進国比で素部装技術の水準を85%まで高めることが期待される」と強調した。
進む資系企業の誘致、ADEKAも韓国で先端素材開発へ
韓国の政府や企業は、素部装の国産化推進の一環として、国内企業に新規参入を促すとともに、海外メーカーの韓国への誘致にも熱心に行っている。韓国政府の進める国産化には、外資企業の韓国での製造も含まれるためだ。特に、Samsungは、日本の経済産業省による対韓素材輸出の厳格化により、日本からの素材輸出が2019年7月に突然ストップしたため、半導体事業の操業が一時停止になりかねない事態が生じた反省から、韓国内の企業に素部装の増産や新規参入を促すとともに、取引のある海外企業に韓国内で開発から製造まで一貫して行うように要請している。
すでにLam Researchは韓国で研究開発から製造まで行える体制を敷いたほか、米MEMC(台GlobalWafers傘下)は韓国内で300mmウェハの新工場を建設、DuPontもEUVレジスト量産工場の進出を決めている。これに対抗して、東京応化工業も韓国で従来型レジストに加えて新たにEUVレジストの製造も始めているほか、住友化学の韓国子会社である東友ファインケムも高純度薬品・レジストはじめ半導体・ディスプレイ製造用素材の増産体制を敷き、フジキンやローツェのような部品や搬送機メーカーも韓国工場の大幅拡張を行っている。
こうした動きに合わせるかのように、化学業界大手ADEKAが高いシェアを持つ先端半導体向け高誘電体材料の開発機能の一部を韓国に移すと日本経済新聞が10月17日付けで伝えている。足元では韓国の化学メーカーが競合素材の開発を急いでおりこのままでは競争力がそがれる恐れが出てきたため、Samsungなど有力顧客との連携をさらに深めてシェアを守るという。
これまで多くの日本企業は、先端材料は技術流出を防ぐために日本で試作し、輸出していたが、それでは韓国に開発・製造拠点を持つ韓国地元企業あるいは先に韓国に進出した外資系ライバルにシェアを奪われかねなくなっている。現に、大阪に本拠を置く複数の高純度フッ化水素酸(フッ酸)メーカーは、対韓素材輸出の厳格化の影響を受け、韓国への輸出が極端に減ってしまい、業績が悪化している。韓国の有力顧客とつきあうには、膝を交えて要望にきめ細かく即応して極めて短期間に開発や製造を行わねばならず、日本からの対応では間に合わないケースが増えているようで、リスクヘッジの見地から韓国産を優先するケースも増えていると韓国へ進出した日本企業の幹部は述べている。