広島大学は10月13日、優れた酸化物半導体である「酸化チタン」のナノ粒子を用いて、2000倍を超える光の増強効果を実現したと発表した。
同成果は、理学研究科の花谷快渡大学院生(博士前期修了)同・、吉原久未大学院生(博士前期修了)、坂本全教大学院生(博士後期修了)、自然科学研究支援開発センター研究開発部門の齋藤健一教授らの研究チームによるもの。詳細は、米化学会の学術誌「The Journal of Physical Chemistry Letters」(オンライン版)に掲載された。
酸化チタン(TiO2)は多くの優れた特徴を持ち、光触媒などの機能も持つ半導体である。白色絵の具、日焼け止め、浴室の抗菌コート、手術室の抗菌・抗ウイルスコート、建物外壁の防汚、くもり止めガラスなど、生活のさまざまな場面で利用されている。
そうした中、酸化チタンが貴金属の代替物質として注目されているのが、光の増強効果の分野だ。金銀などの貴金属は光を照射されると、プラズモン励起によって自由電子が光を吸収し、微量物質の検出、光化学反応の促進、太陽電池の高効率化などを実現できるため、研究開発が進む。
しかし貴金属は希少であり、それ故に高価であるため、安定・安心・安価で大きな光の増強効果を持つ代替物質が模索されている。その代替物質として近年注目されるようになってきたのが、酸化チタンのような半導体だ。齋藤教授の研究チームも酸化チタンに着目し、2018年には500倍という光の増強効果を見出している。そして今回の研究により、2000倍以上という増強度に加え、高い再現性と安定性が達成された。
今回、2000倍以上という増強効果を達成したのが酸化チタンの多孔質フィルムだ。酸化チタンナノ粒子を容器に入れ、常温で20kg/平方cmほどの荷重をかけて圧縮成形すれば完成となる。とてもシンプルに作れるが、酸化チタンナノ粒子のサイズと印可圧力は重要だという。
また圧縮成形によるメリットとして、フィルム表面が平坦化することで増強度のばらつきが約4%と小さくなることが挙げられるという。これにより、高い再現性と安定性が達成されたことも確認された。通常は約20~30%のばらつきがあるため、その1/5~1/7ほどになる。このシンプルな製法と安定した増強度に対して、研究チームでは「実用化に必須な条件」としている。
そして光の増強度は、実験とシミュレーションの両方で評価が行われた。実験では、色素分子の発光強度測定を顕微分光法により実施。具体的な仕組みは、効率よく光を集める粒子サイズ(ミー共鳴)の酸化チタンナノ粒子が入射した光を高効率に放射(散乱)し、粒子近傍の色素分子が高効率に励起されることで、発光強度が増大するという。なお、300~500nmという最適化した粒子サイズの酸化チタンナノ粒子は、同サイズの金銀のナノ粒子よりも大きな増強度を与えるとした。
増強効果において、もうひとつの重要な要素が、ナノ粒子間の距離であるナノギャップだ。ナノギャップによって、複数の酸化チタンナノ粒子の「アンテナ効果」で集められた光(増強した光)が効率よく重なり合うため、その距離が重要となる。そして今回はナノギャップを調整し、2018年時の4倍、2000倍を超える増強度を実現したのである。
3次元ナノ空間での電磁場シミュレーションの検証によると、最大の増強度を実現する最適なナノギャップは5-10nmであることが確認された。一般的に、ナノギャップの作製には電子線リソグラフィを使った精密な構造制御が求められるが、今回の研究では粉末粒子を圧縮するだけのシンプルな手法が用いられたこともポイントだ。そして作製された20平方mmのすべての面で高い再現性を与えたとしている。
研究チームは今後、新型コロナウイルスの不活化に酸化チタンが注目されていることから、その研究開発にも挑戦するとしている。