アマゾン ウェブ サービス ジャパンは10月13日、第二期政府共通プラットフォームが同社のクラウドサービス上で運用を開始したことに伴い、記者説明会を開催した。説明は、執行役員 パブリックセクター 統括本部長 宇佐見潮氏が行った。
「第二期政府共通プラットフォーム」とは
そもそも、「第二期政府共通プラットフォーム」とは何なのか。政府は2013 年に、各府省がバラバラに構築・運用している政府情報システムの段階的な統合・集約化を図るための情報システム基盤として、「政府共通プラットフォーム」第一期の運用を開始した。
しかし、その運用の効率性やITリソース提供の硬直性などの課題が指摘されていることから、各府省と連携を図りながらインシデントの抑制に関する取り組みや業務プロセスの再構築を進めるとともに、使用実績に基づいたリソース量の見直しによる、経費抑制に取り組んでいるという。
一方、政府は各府省がサービスや業務を実施する際に利用する情報システムを構築する際、クラウドの活用を第一に検討するという方針「クラウド・バイ・デフォルト原則」を掲げている。これは、2018年6月に政府が発表した「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」で発表された。
こうした背景から、「政府共通プラットフォーム」は、2020年度中にクラウドサービスを活用した新たな政府のプライベートクラウドの提供開始を目指している。これが、「第二期政府共通プラットフォーム」に相当する。
政府のクラウド調達における課題とは?
宇佐見氏は、政府のクラウド利用を後押しした要素として、2019年5月に成立したデジタルファースト法(正式名称は「情報通信技術の活用による行政手続等に係る関係者の利便性の向上並びに行政運営の簡素化及び効率化を図るための行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律等の一部を改正する法律」)も挙げた。
この法律は、ITを活用して行政手続の利便性の向上や行政運営の簡素化・効率化を図ることを目的としており、行政のデジタル化に関する基本原則および行政手続の原則オンライン化のために必要な事項を定めるとともに、行政のデジタル化を推進するための個別分野における各種施策を講じるとしている。
さらに、菅義偉首相は今年9月、行政のデジタル化を牽引する「デジタル庁」の創設に向けた基本方針を年内にまとめるよう指示しており、宇佐見氏は「こうした日本政府のニーズに応えるため、われわれも政府のクラウド化を支援していきたい」と語った。
宇佐見氏は、政府がクラウドへ移行するにあたって、「最も時間がかかっていることは、どうやってクラウドを購買するかという点。なぜなら、政府はこれまで購買を行う際、固定価格かつ長期契約を採用していた。クラウドは利用量によって価格が変わってくる。この点をどう折り合いをつけるかが課題となる」と指摘した。
しかし、今回政府がAWSベースの「第二期政府共通プラットフォーム」の運用を開始したことで、「自治体に展開する上でのテンプレートになる」と、宇佐見氏は話した。
従量課金の課題はどう解決するのか?
「第二期政府共通プラットフォーム」において、利用料金はどのような形で支払われることになるのだろうか。
宇佐見氏によると、政府の調達には単価が明記されているので一般ユーザーのような完全な従量制が適用される訳ではないそうだ。同プラットフォームを利用する府省を総務省がとりまとめることで、利用府省は従来方式でクラウドを利用することができる。
AWSの提供はパートナーである日立システムズを介して行われ、AWSが利用されて初めて売上となる。調達においては、パートナーがAWSの提供価格を競う形となったそうだ。
「まだ、電気や水道のような料金体系で利用するには至っていない。そこまで行くにはまだ時間がかかる」と、宇佐見氏はいう。
「第二期政府共通プラットフォーム」がもたらすメリット
宇佐見氏は、「第二期政府共通プラットフォーム」において生かされているAWSの特徴として、以下を挙げた。
- Infrastructure as codeによる基盤構築の自動化
- マネージドサービス利用による運用工数の削減
- AWS Shield・AWS WAFによるDDoS攻撃からの保護
- 省庁横断の一元的なアカウント管理やセキュリティポリシーの徹底
- マルチAZ/マルチリージョンによるレジリエンスの向上
そして、宇佐見氏は政府のIT基盤がクラウド化したことによる効果について、「スタートアップなどにビジネスチャンスがもたらされるともに、調達環境がデジタル化したのは大きな変革」と話した。
さて、複数のクラウドベンダーがしのぎを削る中、同社のサービスが政府に採用されたことは、クラウド市場に一石を投じたとも言える。かつて、Salesforce.comは中小企業を中心に利用が進んでいたが、日本郵政に導入されたことが、一気に大企業でも利用が広がった。今回の件で、AWSは競合に対し、差をつけたとも言える。
宇佐見氏は競合に対する同社のアドバンテージについて、「われわれは競合を前提にサービスを開発していない。あくまでも、ユーザーの声をベースにサービスを開発している。今後も、ユーザーのニーズにこたえていきたい。競合との差別化要素を敢えて言うなら、ユーザーの声に寄り添って成長してきたこと」と語っていた。