九州大学(九大)は10月12日、ダイヤモンドに次いで地上で2番目に硬い物質である「立方晶窒化ホウ素」(c-BN)の表面結合状態を制御して得られる「超親水性c-BN」が、ダイヤモンドさえも凌駕する優れた生体適合性を示すことを明らかにしたと発表した。

同成果は、九大大学院総合理工学研究院の堤井君元准教授、物質・材料研究機構の松本精一郎元研究員、米・ストーニーブルック大学のミリアム・ラファイロビッチ教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、学術誌「Advanced Functional Materials」に掲載された。

現在、人類が手にできる物質で最も硬いものはダイヤモンドである。しかしダイヤモンドは熱に弱く、酸素や鉄と反応しやすいという欠点を持つ。それに対し、2番目の硬さを持つc-BNは、熱に強く、酸素や鉄との反応性も低いという特徴を持つ。そのため、高温大気中でも安定な上、鉄を含む材料の機械加工にも使えるというメリットを有している。しかしc-BNの扱いが難しいところは、高品質に作製することが困難なことだ。そのため、産業への応用は遅れており、さらに細胞や血液と接する生態環境への応用には至っていなかった。

そうした中、高品質のc-BNを作成できる技術として、国際共同研究チームが独自に開発したのが「プラズマ化学気相蒸着法」だ。同手法は、プラズマを用いて原料ガスから高エネルギーの原子・分子やイオンを形成し、それらの化学反応を利用することにより、基材に材料を蒸着させるというものである。

同手法によって作製された高品質なc-BNは、さらに「プラズマ改質処理」によって、表面結合状態を制御されることで超親水性c-BNとなる。プラズマ改質処理とは、プラズマを材料の表面に照射することより、材料表面の構成元素や結合状態を変化させる手法のこと。また表面結合状態とは、物質の材料表面では原子間の結合が途切れるため、その材料の構成元素とは異なる元素を結合させることが可能であり、その最表面の元素の種類や結合の仕方のことをいう。

超親水性c-BNが生体適合性に優れるとは、生体内に入れても拒絶反応が起こらず、異物として認識されない性質を有しているということ。ちなみに超親水性とは、垂らした水が薄く広がる性質のことである。

今回作製された超親水性c-BNは、耐久性と生体適合性に優れた人工骨、人工歯根などのインプラントや生体情報センサーの開発に役立つ可能性があるとしている。

  • c-BN

    (a)プラズマ改質処理による高品質c-BN膜の超親水化とその後の細胞培養試験。(b)超親水性c-BN膜上で成長した細胞。(c)細胞成長時に生成した鉱物とエネルギー分散型X線分光スペクトル。リン(P)とカルシウム(Ca)が含まれていることが分かる (出所:九大Webサイト)