国立天文台は10月7日、国際共同研究チームがすばる望遠鏡による星の表面組成と内部構造の測定により、極端に多くのリチウムを持つ星は、中心部でヘリウムの核融合を起こす進化段階にあることを明らかにしたと発表した。

同成果は、国立天文台/総合研究大学院大学の青木和光准教授や、中国国家天文台の研究者らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英天文学誌「Nature Astronomy」に掲載された。

恒星は、中心部での水素の核融合により長期間にわたって輝き続ける。水素が核融合した結果誕生する“燃えかす”がヘリウムだ。恒星内でヘリウムは中心に溜まっていき、いつしか水素はその周辺で核融合を起こすようになる。その時点で恒星は晩年期の赤色巨星段階に突入しており、徐々に大きく膨らんでいく。太陽もあと50億年ほど後にそうなるとされており、そのときには地球を飲み込むか飲み込まないかそのギリギリまで膨張するといわれている。

赤色巨星も進化段階がいくつかあり、まだ水素が核融合している初期段階を過ぎ、使い切って水素による核融合が起きなくなってくると、今度はヘリウムが中心部で核融合を起こすようになる。このヘリウムが核融合を起こすようになった段階の赤色巨星は、特殊な位置づけであることから「クランプ星」と呼ばれている。

  • 赤色巨星

    星の進化と内部構造の概念図。赤色巨星の中にも進化段階があり、単純に本来の恒星から赤色巨星へと膨らんでいくだけではない (c) Wako Aoki (NAOJ) (出所:国立天文台すばる望遠鏡Webサイト)

赤色巨星は表面付近の対流が活発なことが特徴で、内部の物質と表面の物質がよく混ざった状態となる。水素、ヘリウムについで軽い元素であるリチウムは、高温となる恒星の内部では壊れてしまうため、対流が活発となった赤色巨星においては表面でもリチウムの量が少なくなってしまう。しかし、一部の赤色巨星では例外的にリチウムの量が予想よりも何桁も多く存在することが知られており、その理由は今のところわかっていない。このリチウム過剰な恒星は、赤色巨星の中の1%程度を占めていると見積もられている。

最近の観測から、この異常なリチウムの増加を示す赤色巨星は、クランプ星であることを示唆する結果が得られたという。しかし、まだ水素が中心部の周辺で核融合を起こしている段階の赤色巨星と、クランプ星は進化段階や内部構造は大きく異なるが、表面温度と明るさが似たような状態となる場合が多いため、見分けるのが困難である。そのため、リチウムの増加を示す赤色巨星は、これまでクランプ星であると断定することができなかったという。

国際共同研究チームは今回、中国の分光探査望遠鏡「LAMOST」を用いて、リチウムの多い赤色巨星を多数発見した(画像2)。そのうちの134天体について、ケプラー衛星のデータに基づいた「星震学」の手法により、進化段階を明確にすることに成功。そしてその多くが、中心部でヘリウムの核融合を起こしているクランプ星であることを初めて明瞭に示したとした。

なお恒星は、地球のような固い地面のある岩石惑星とは異なり、プラズマの塊であるため地震(星震)のイメージが湧きにくいかもしれないが、表面(星そのものが)は常に震動している。その震動を測定することで内部構造を調べることが可能であり、そのような天文の一分野を星震学という。

また、リチウム組成が極端に高い星は、クランプ星の段階において特に集中的に現れることも確認された。すばる望遠鏡は26天体について精度の高い分光観測を行い、信頼性の高いリチウム組成を得て上記の結果を裏付ける役割を果たした(・

  • 赤色巨星

    リチウムのスペクトル線の例。左がLAMOST、右がすばる望遠鏡によるデータ。どちらも上側の水色のスペクトル線が通常の赤色巨星、下側の青色のスペクトル線がリチウム過剰な赤色巨星のもの (c) H. L. Yan (NAOC) (出所:国立天文台すばる望遠鏡Webサイト)

  • 赤色巨星

    すばる望遠鏡で観測されたリチウム過剰が星をプロットされたグラフ。リチウム過剰な星は★で表されており、赤のクランプ星に多く見られる。青は中心部周辺で水素が核融合を起こしている段階の赤色巨星で、数は少ない。ちなみにグラフの横軸の「星の明るさ」が重力で表されているのは、表面重力が小さくなるほど明るくなるからである (C)Yan et al. (出所:国立天文台すばる望遠鏡Webサイト)

ちなみに今回の研究における望遠鏡の役割は、LAMOSTの方が多数の星を効率よく観測することができることから多数の赤色巨星を観測。それに対し、すばる望遠鏡のデータの方が波長を細かく分けて測定できるため、より正確にリチウムの量を測定することが可能だ。つまり、すばる望遠鏡はLAMOSTの測定結果の検証を行ったのである。

太陽のような軽い星の研究には長い歴史があり、天文学の中では比較的詳細に調べられている分野だ。しかし、赤色巨星におけるリチウムの異常な増加は、星の構造や進化を理解する上で基本的な問題が依然として残されており、今回の研究では、残念ながらリチウムが増加するそのメカニズムまでは解明に至らなかった形だ。しかし、それが起こる進化段階がわかってきたことは謎の解明に大きな一歩となったという。すばる望遠鏡で取得した分光データには、リチウム以外の元素の情報も豊富に含まれており、リチウム過剰な星の特徴をさらに詳細に解き明かすための貴重なデータとなるとしている。