愛媛大学と高輝度光科学研究センター(JASRI)は10月2日、超高温高圧下で進行する水と金属鉄の化学反応を詳細に調べ、地球のコア外核を構成する液体金属鉄の表面に「さび(酸化鉄)」が生成されることを明らかにしたと共同で発表した。

同成果は、愛媛大地球深部ダイナミクス研究センターの西真之准教授、東京大学の桑山靖弘助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、「Geophysical Research Letters」に掲載された。

液体の水は岩石と比べて軽いため、そのままでは地球の奥深くまで入り込むことはできない。しかし、含水鉱物のような水を結晶構造中に含む鉱物であれば、地球内部にまで水を保有したまま入り込むことが可能だ。そこは高温環境であり、水は沸騰してとても地球の奥深くまで入っていくのは不可能なイメージがあるが、プレートの沈み込みに代表されるマントルの対流運動により、鉱物に含まれる形で地球内部を循環している。

しかし、超高温高圧環境であるコア付近に到達した水がどのような挙動を取るのかは不明だ。コアは、地球の中心から半径約3500km(地球の半径は約6400km)までの領域において、固体鉄からなる内核と液体金属鉄からなる外核で構成されている。外核の外側が、高温の岩石からなるマントルとなる。

そのコア-マントル境界は物理的に高温というだけでなく、地質学者・地球物理学者にとってもホットな領域だ。マントル内を上昇もしくは下降する大規模な対流運動である「プルーム」の発生や、コア-マントル境界にある「地震波超低速度層」の起源、またはコア外核を構成する液体金属鉄への水の溶け込みなど、水が地球深部環境に及ぼすさまざまな影響が活発に議論されている。

こうした背景を受けて共同研究チームは今回が研究対象としたのが、コア-マントル境界付近での金属鉄と水の化学反応についてだ。同境界付近の120万気圧という高圧環境は、ダイヤモンドアンビルセルを用いた高圧発生技術で再現。そして観察には、高輝度光科学研究センターが運営する大型放射光施設「SPring-8」の高圧構造物性ビームライン「BL10XU」に設置されたレーザー加熱システムおよび放射光X線が用いられた。

数秒間隔で得られたX線回折パターンの時間変化や、電子顕微鏡による回収試料の組織観察から、高圧下における金属鉄と水の反応は水素化鉄および酸化鉄の生成を引き起こすことが判明した。湿度の高い環境下では、金属は容易に錆びる(酸化する)ことは一般的に知られているが、超高温高圧下のコア外核の液体金属鉄も錆び、コア-マントル境界に酸化鉄に富む層が形成されることを示唆しているとした。

なお、地震波超低速度層はコア-マントル境界付近に見られ、地震波の伝わる速さが遅い領域だ。今回の研究で示唆された酸化鉄に富む層は地震波の伝わる速度が遅く、地震波超低速度層の成因を上手く説明することも可能だという。研究チームは今回の研究成果が、地球内部の対流運動やコア-マントル境界の性質、地震波異常の起源などを知る上で、重要な知見となるとことが期待されるとしている。