米国半導体工業会(SIA:Semiconductor Industry Association)は、米Boston Consulting Group(BCG)と協力して、米国内の半導体製造に対する米国連邦政府のインセンティブ(補助金)案の影響を調査分析し、その調査結果を発表した。

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    SIAとBoston Consulting Groupが共同で執筆した調査報告書の表紙 (出所:SIA)

米国議会での米国の半導体製造強化法案の審議(別々に超党派議員が提出した2件の法案の一本化作業が進んでいる)に影響を与えることを目的に作成されたようで、ロビー活動の一環としてすでに国会議員ら関係者に配布されたようである。

「半導体製造における(米国)政府のインセンティブと米国の競争力」というタイトルのレポートは、連邦政府の500億ドル規模の巨額なインセンティブこそが、米国での半導体チップ生産の衰退という数十年にわたる軌道を逆転させ、今後10年間で19の主要な半導体製造施設(ファブ)と7万名の雇用を創出することが可能になると結論付けている。

米国半導体製造を繁栄に導く巨額補助金

ON Semiconductorの社長兼CEOであり、2020年度のSIA会長であるKeith Jackson氏は「米国の半導体製造に対する連邦政府のインセンティブは、米国の経済力、国家安全保障、サプライチェーンの信頼性、およびパンデミック対応への投資ということである。米国政府は、迅速で野心的な行動(=巨額の補助金の拠出)により、数十年にわたる米国内半導体製造衰退の流れを変え、現在世界でわずか12%にとどまっている米国でチップ製造のシェアを上昇させて、米国を世界で最も魅力的な場所の1つにすることができる」と述べている。

レポートでは以下の3つのポイントについて述べられている。1つ目は、米国内で半導体製造を行うことは、米国の経済競争力、国家安全保障、およびサプライチェーンの回復力にとって重要であるという点。米国のチップ製造を強化することで、人工知能、5G、量子コンピューティングなど、今後数十年にわたる世界の経済的および軍事的リーダーシップを決定する将来の戦略的テクノロジー分野で、米国が世界をリードするのに役立つとするほか、より多くの半導体を国内で生産するということは、米国の半導体サプライチェーンについて、将来の世界的な危機に対してより弾力的なものへと変化させ、軍事および重要なインフラストラクチャに必要な高度なチップを国内で生産できることを保証することになるとしている。

2つ目は、米国にある世界の半導体製造のシェアは、主に競合する外国政府が大きなインセンティブを提供し、米国が提供しなかったため、ここ数十年で大幅に低下してきたという点。現在、米国に本社を置く半導体企業(ファブレス+IDM)は世界の半導体チップ売上高の48%を占めているが、海外に本社を置く企業が運営する米国内ファブを含め、米国にある半導体ファブは世界の半導体製造能力の12%しか占めておらず、1990年の37%から大きく低下してしまっている。

現在、世界のチップ製造は東アジア(韓国・台湾・日本・中国)に集中している。中国政府の半導体産業振興に向けて1000億ドルともいわれる補助金を投じており、2030年までにチップ生産のシェアで世界最大になると予想されている。半導体のタイプにもよるが、米国の新しいファブの運用コストは、台湾、韓国、またはシンガポールのファブよりも構築および10年以上運用するのに約30%高く、中国のファブより37〜50%高くなると見積もられ、そのコスト差の40〜70%は、政府のインセンティブに直接的な影響を与えるものとなる。

3つ目が、国家安全保障を強化し、米国にチップ製造を復活させ、数万人の米国の雇用を創出するには、半導体製造に対する強力な連邦政府のインセンティブが必要というもの。合計200〜500億ドルの連邦製造業助成金と減税が実現すれば、米国は魅力のない投資先から最も魅力的な投資先(中国を除く)となり、今後10年間で米国に19のファブが構築され、製造のシェアが27%へと増加することが期待されるとする。

現在の米国の商業ファブの数は70を超えているが、連邦政府の製造インセンティブは、高学歴のエンジニアから製造技術者やオペレーター、材料サプライヤーに至るまで、米国で最大7万人の雇用を創出することができることが見込まれるとする。世界の半導体産業は、今後10年間で製造能力を56%増加させると予想されているが、米国は、500億ドルのインセンティブが行われない場合、わずか6%の増加とされており、インセンティブにより、グローバルの生産能力における存在感を高めることが可能になるとしている。

同レポートではまた、政府の補助金により、国内の半導体製造が反映するのを助けることができるだけではなく、材料および製造科学の基礎研究、米国が強力で才能のある技術者の育成、米国のR&Dリーダーシップを維持するための継続的な取り組み、およびグローバル市場へのアクセスの確保がもたらされることも指摘している。

なお、SIAプレジデント兼CEOのjohn Nuffer氏は「高度なチップの研究、設計、製造をリードする国は、5G、人工知能、量子コンピューティングなどのゲームチェンジャーとなるテクノロジーについて世界的な競争力を発揮できるだろう。ワシントンのリーダー(=国会議員)は、この機会を捉え、チップ生産を引き付けるために世界的な競争の場を平準化し、今後数十年にわたって米国の技術リーダーシップを強化する国内製造と研究に大胆に投資する必要がある」と述べており、米国政府が巨額のインセンティブ(補助金)を拠出するように促している。

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    半導体バリューチェーンにおける各半導体カテゴリの2018年における米国のシェアと2019年における主要各産業の製造分野における米国のシェア (出所:SIA)

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    米国の半導体生産能力の世界中の生産能力に占めるシェア(上段)、米国の半導体生産能力のの世界主要7地域における順位(中段)、米国に建設される新しいファブ数(下段)に関する2010-2020年の実績と2020-2030年の予測(米国政府の補助金がない場合、補助金が200億ドル拠出された場合、補助金が500億ドル拠出された場合) (出所:SIA)