マイクロ波を使って離れた機器に電力を送ることができる「ワイヤレス給電」の基盤技術となる部品や装置をそれぞれ開発した、と名古屋大学と金沢工業大学が23日発表した。ワイヤレス給電は利便性や省エネに優れ、家庭内の電子機器や小型無人機(ドローン)のほか、電気自動車(EV)など大きな機器への応用が期待されている。両大学は共同研究を進める他の大学、研究機関や企業と連携して大電力も扱える技術の実用化を目指す。
ワイヤレス給電は、ごく近い距離間ならばケーブルなしで充電できるスマートフォンなどの小型家電で既に実用化している。マイクロ波を使って離れた距離の給電も実用化できれば大容量のバッテリーは不要になり、長時間運用ドローンや移動型ロボット、さらにEVなど、より大きな機器や地域防災センサーネットワークといった社会システムへの応用も可能とされている。
ワイヤレス給電の技術にはいくつかの方式があるが、名大と金沢工大などが研究開発を進めているのは、送電装置から電力に相当するマイクロ波を受けて側の機器に向けて発し、特殊な電子部品と装置がこのマイクロ波を効率よく電力に変換するもの。今回名大がこの電子部品を、金沢工大が装置をそれぞれ中心となって開発した。
名大・未来材料・システム研究所の天野浩教授らの研究グループは、電気抵抗が小さく、エネルギー損失も少なく、青色発光ダイオードにも使われる窒化ガリウムに着目。これを材料に、マイクロ波を電力に効率良く変換する電子部品でダイオードと呼ばれる「GaN整流素子」を開発した。ガリウムヒ素を使うこれまでの部品よりも多くの電気を流すことが可能になったことを確認したという。
天野教授は赤﨑勇氏、中村修二氏とともに青色発光ダイオードを開発した功績で2014年のノーベル物理学賞を共同受賞している。
金沢工大・工学部電気電子工学科の伊東健治教授と坂井尚貴研究員らの研究グループは、形状を変えた受電アンテナにダイオードを直接接続することにより、マイクロ波を受信して高効率に電力に変換できる装置「受電レクテナ」を開発した。マイクロ波電力1ワットを送った時に92.8%の電力変換効率を達成した。この分野では世界最高水準という。
名大と金沢工大は今回の成果を互いに生かし、当面は10ワット級、いずれはより大きな電力のワイヤレス給電の実用化を目指す。
今回成果が発表された研究は、内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」「エネルギー伝送システムへの応用を見据えた基盤技術」研究の一環として行われた。同研究には2大学のほか、名古屋工業大学、長岡技術科学大学、芝浦工業大学、産業技術総合研究所や、三菱電機、富士電機、シャープ、古河電気工業、ダイヘン、ポニー電機の各民間企業が「産官学」の研究チームとして参加している。
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