Huaweiの5nm SoC発表見送りは米国政府への刺激対策か?

スマートフォンや半導体業界関係者の間では、Huaweiが9月5日にも「世界初の5nmアプリケーションプロセッサ」を発表するのではないかと囁かれていたが、その舞台と目されていた家電の国際見本市IFAでの恒例となっていた発表をとりやめただけではなく、10日に中国深センで開催したHuawei開発者会議でも独自OSの発表はしたものの5nm Kirinチップやそれを採用するとうわさされる次世代スマートフォン「Mate 40シリーズ」の発表はなかった。

一方、Appleは9月15日(米国時間)に行った新製品発表イベントで、新型iPad AirにTSMCの5nm EUVプロセスを使ったA14 Bionicプロセッサの搭載を発表した。

Appleに先んじて「世界初の7nm商用チップ」や「世界初の5G対応チップ」といううたい文句を使い続けてきたHuaweiがAppleに世界初の5nmデバイス発表の花をもたせた格好で、とにかく米国政府を刺激してさらなる制裁が発動せぬように鳴りを潜めているようにも見える。

中国半導体メーカー各社も、米国商務省の通達(8月17日付け)にしたがってHuaweiヘの半導体の販売を中止しており、制裁対象となることを何としても避けようとしている。中JHICCが、米国政府から禁輸措置を受けたとたんに開店休業状態に追い込まれ、今もその状況が続いているのを見ている中国勢は米国政府の通達に逆らえない状況に追い込まれているようだ。SMICも、Huaweiへの半導体販売を取りやめている。米商務省にライセンス取得申請しているともいわれているが、商務省は現状、一切ライセンスを与えない方針を貫いている。

Huaweiが確保した5nm SoCは最大で1000万個程度か?

Huaweiは、5nm SoC(当初はKirin1000や1020の名前が噂されていたが最近ではKirin9000の呼称が有力)に関する情報を一切公表していないが、一部の中国メディアは、HuaweiはTSMCに1500万個の生産委託を行ったが、実際に入手できたのは1000万個程度であり、数カ月以内に消費する量だと報じている。参考までに2019年に発売されたHuawei mate 30 Proは3か月で1200万台売れたという。

別の中国メディアは、Huaweiの在庫は880万個(300mmウエハ2200枚×ウェハ当たりの取れ数4000個=880万個)と伝えている。Huaweiは、米国商務省の制裁措置で9月中旬以降は5nm SoCを入手できなくなったため、国内向けスマートフォンには5nm SoCを用い、海外向けはMediaTeKの標準アプリケーションプロセッサを用いることにしていたとされるが、米国政府は制裁を強化して標準品のHuaweiへの販売までも事実上禁止した。正確には、輸出に際して米国商務省に申請しライセンス(輸出許可証)を受ける必要があり、MediaTekはすでに申請中といわれているが、許可される見込みはまったく立っていない。

米中首脳による会談が開かれ電撃的な妥協でもせぬ限り、Huaweiは、Mate 40シリーズを発売しても5nm SoCの在庫が底をつき次第、スマートフォンビジネスから撤退せざるを得ないという見方が日増しに強くなっている。 Mate 40シリーズは、Huawei最後のハイエンドスマートフォンとしてプレミアが付くとの見方もあり、発売されれば、あっという間に売り切れるものと見られる。