近畿大学(近大)は9月17日、ソフトウェア技術者の能力と加齢との関係について調査を行い、加齢による記憶力の低下により、特定のプログラムにおいては理解により多くの時間を要することを明らかにしたと発表した。
同成果は、同大学大学院総合理工学研究科の村上優佳紗学生(当時、博士前期2年)、同大学理工学部情報学科の角田雅照准教授、同大学大学院システム情報学研究科の中村匡秀准教授らの研究チームによるもの。詳細は、電子情報通信学会が発行する英文論文誌「IEICE Transactions on Information and Systems」のVol.E104-D No.1に掲載予定として、先にオンライン公開された。
人手不足はソフトウェア開発の現場においても指摘されており、いかにして技術者を確保するかが重要な課題となっている。中高年技術者の活用が1つの解決策となり得るが、程度の差こそあれ、加齢にしたがって人間の認知能力は低下することが知られており、そうした加齢による能力の低下を補えるソフトウェアを生み出せれば、能力低下の影響を抑えて中高年技術者の労働力を活用できるのではないかと期待されている。
研究チームは今回、認知能力の1つとして技術者の記憶力に着目。加齢による記憶力の低下が、プログラムを理解する時間にどのように影響するのかについての実験を行い、その結果をもとにした分析を行ったという。
ソフトウェアの開発においては、プログラムの修正を行う保守作業の割合が高いが、そのためにはプログラムの中身を理解している必要があり、その読み込みと理解に時間がかかると保守作業効率が低下することとなる。
実験では、「記憶能力の高低が理解時間に影響しにくいプログラム」と、「記憶能力の高低が理解時間に影響しやすいプログラム」の2種類を用意。被験者を若年グループ(22~24歳の24人)と中高年グループ(33~64歳の8人)に分け、それぞれのプログラムの理解にかかる時間を計測したところ、「記憶能力の高低が理解時間に影響しにくいプログラム」では、若年グループと中高年グループでは理解に要する時間にほとんど差はなかったことが判明したという。一方、「記憶能力の高低が理解時間に影響しやすいプログラム」では、中高年グループの理解時間が長くなるという結果が出たとのことで、これらの結果から、中高年グループは常に理解時間が長いわけではなく、記憶力を必要とする場合のみ長くなる傾向があるという結論を得たとする。
この結果を踏まえ研究チームは、中高年技術者の記憶力低下を補うソフトウェアの開発が望まれるとしている。例えば、「記憶能力の高低が理解時間に影響しやすいプログラム」は、理解のために記憶すべき事項が多い傾向があるものであり、それを踏まえ、記憶すべき事項を自動的に記録して技術者が随時参照できるようなソフトウェアを組み合わせることで、理解速度の低下を防ぐことができるのではないかとしている。