全日本空輸(ANA)は2020年8月22日、エアバスA380型機「FLYING HONU(フライング・ホヌ)」を使い、ハワイ旅行感を味わえるチャーターフライトを実施した。

同機はハワイ・ホノルル路線のみで運航されているが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で運航が停止している。そんななか、利用者からの希望によって、夏休みの思い出作りにと今回のチャーターフライトが実現した。

ANAでは今後も、コロナ対策を徹底したうえで、今回のような企画をはじめ、いままでと変わらない快適さや楽しさを、いままで以上の安心で提供したいとしている。

  • FLYING HONU

    約5か月ぶりに乗客を乗せて飛んだANAのエアバスA380型機「FLYING HONU(フライング・ホヌ)」

FLYING HONUによる遊覧飛行はなぜ実現したのか?

A380は、欧州のエアバスが開発した、総2階建を特徴とした世界最大の旅客機である。ANAでは、2019年に2機を導入し成田~ホノルル路線で運航。FLYING HONU(空飛ぶウミガメ)の名のとおり、ハワイの海を泳ぐウミガメをイメージした塗装で人気が高い。今秋以降には3機目も受領することになっている。

しかし、新型コロナウイルス感染症の影響で、今年3月から運航を停止。今回、成田空港発着のチャーターフライトという形ながら、約5か月ぶりに乗客を乗せた状態での飛行となった。

今回のチャーターフライトが実現した背景には、まさにこの新型コロナによる運航停止があった。旅客機は飛行しない状態が90日以上続くと、「重整備」という大規模な整備が必要となってしまう。そこで6月、ANAは重整備を回避するため、乗客を乗せずに成田空港を発着する形での飛行を実施した。

すると、このニュースを見た利用者から、「その機会を利用して遊覧飛行ができないか」との提案があったという。ANA 代表取締役 専務執行役員の井上慎一氏は「ANAは1952年の創業以来、お客さまのお声、想いを大切にしたいというDNAを受け継いできた。今回お客さまから頂戴した熱い想いが、私たちのDNAに火を付け、『よし、やるか』と実現した」と語った。

なお、一部報道やANAのプレスリリースなどでは「A380のテスト飛行を利用した遊覧飛行」と紹介されているが、実際にテスト飛行に乗客を乗せたというわけではなく、遊覧飛行をすることが目的であり、平時のチャーターフライトと何ら変わらないプロセスで実施された。あくまで副次的に、遊覧飛行を行うことで、重整備を回避するためのテスト飛行を行わなくても済む、という意味合いであるという。

また、ただの遊覧飛行ではなく、同機がハワイ路線で使われていることや、コロナ禍で夏休みが短かったり、海外旅行に行けなかったりする利用者がいることから、スタッフがアロハシャツを着用したり、また実際のハワイ路線と同じ安全ビデオが流れたり、ドリンクサービスが提供されたりと、至るところで“ハワイ感”を出す演出が催された。

料金もエコノミークラスで1万4000円、ファーストクラスでも5万円と安価なこともあって、航空機ファンから旅行ファンまで多数の応募があり、抽選倍率は150倍にもなったという。

なお、ANAのA380は最大520人が搭乗できるが、今回のフライトでは334人に抑えられた。ちなみにこれは、コロナ対策というよりは、本来は国際線の施設で運用するA380を国内線施設で運用したことや、オープンスポットを用いた搭乗、降機を行う必要があったことなどから生まれた制約によるものだという。

そして、抽選で選ばれた334人の乗客を乗せたA380は、14時27分に成田空港を離陸。約1時間半後の15時52分に、成田空港に着陸した。飛行ルートは「お楽しみ」として秘密となっていたが、見晴らしのいい日本最高峰の富士山の上空を通ったあと、名古屋を通って太平洋に向かい、ハワイに似ているといわれる三原山(大島)の上空を飛行したという。

参加した乗客らは、「短いながらもハワイ気分を楽しめた」、「憧れのA380に乗れて嬉しかった」と感想を口にした。ひさびさにA380が乗客を乗せて飛んだことから、ANAの客室乗務員やファンの目には涙も見られた。

ANAでは今後も、同様のチャーターフライトの第2段のほか、コロナ禍でも安全、安心のうえ楽しめるさまざまな企画を打ち出していきたいとしている。

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    さまざまな事情から、オープンスポットからタラップ車を通じて乗り込む方法がとられた

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    出発時には、スタッフにより「いってらっしゃいませ」という横断幕が掲げられた

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    滑走路に向かうA380。スタッフが手を振って見送った

ANAのコロナ対策

今回の飛行を含め、ANAでは「ANA Care Promise」と名付けた、新型コロナウイルス感染症への予防に対する取り組みを徹底し、乗客が安心・安全に利用できるよう努めているとしている。

実際に今回のチャーターフライトにおいても、地上のスタッフや乗客はもちろん、地上で取材する報道陣に対しても、マスクの着用をはじめ、並んでいる際のソーシャル・ディスタンシングなどが徹底されていたほか、消毒液やビニールカーテンの設置など、さまざまな対策がとられていることが見て取れた。

また機内には、もとより高性能な換気システムを搭載。上空のきれいな空気を大量に取り込むことで、約3分で機内の空気がすべて入れ替わるほか、病院の手術室と同じ高性能フィルターを全機に装備し、空気をろ過したうえで客室内に供給している。また、この換気システムは地上在機中(搭乗中、降機中)も作動。こうした対応は、IATA(国際航空運送協会)の見解で推奨されているバイオセキュリティ対策にも準拠しているという。

新型コロナウイルス感染症の流行はまだ終わりが見えず、つらくて不安な毎日が続く。そのいっぽうで、ANAのような航空会社や旅行業界などは利用者減で悲鳴をあげている。感染予防を徹底したうえでの旅行が推奨されつつもあるが、本当に行っても大丈夫なのかという不安は拭えない。

こうしたなかでANAは、感染予防を徹底したうえで、今回の短時間の遊覧飛行のように、感染リスクをできる限り抑えつつ、海外旅行に行った気分が味わえるというユニークな企画を打ち出した。感染拡大防止と経済活動の両立は可能なのかという暗中模索のなか、これがひとつの答えになること、そして一日も早くかつての日常に戻れることを願いたい。

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    ANAでは新型コロナ対策として、ビニールカーテンなど、「ANA Care Promise」と名付けた予防に関する取り組みを徹底している

  • FLYING HONU

    2機並んだA380。手前が今回のチャーターフライトで使われた1号機、奥が2号機

参考文献

エアバスA380型機「ANA FLYING HONU」チャーターフライト|プレスリリース|ANAグループ企業情報
ANAの新型コロナ対策 飛行機内・空港の安全対策 ANA Care Promise
飛行機内の新型コロナ感染リスクに対応した消毒・衛生対策 | ANA
新しいA380型機/FLYING HONU(フライングホヌ)で変わるANAのハワイ