恒星の終末の姿として理論上あり得ない、これまでで最大質量のブラックホールの衝突、合体を記録した、と米欧の研究グループが発表した。重力波観測による成果で、衝突を経験済みのブラックホールが再び衝突した可能性などが指摘されている。ブラックホール形成の理解の見直しを迫られる可能性があるという。
米国の2カ所の観測施設「LIGO(ライゴ)」と欧州の施設「VIRGO(バーゴ)」のグループはそれぞれ昨年5月21日、太陽の約66倍と約85倍の質量を持つブラックホール同士が衝突、合体して同約142倍の質量のブラックホールが生まれたのを観測した。これまで観測したブラックホール衝突で最大の質量となった。残りの太陽質量の約8倍に相当するエネルギーが、重力波となって宇宙に拡散した。地球から約70億光年離れた場所で起きたとみられる。
比較的大きな恒星は一生の最後の大爆発を経て崩壊し、巨大な重力のために光すら脱出できない天体、ブラックホールとなる。従来の理論では、このタイプのブラックホールは太陽の質量の60~120倍にはなり得ないとされてきた。この範囲の大きさだと、恒星がガスやちりしか残らないほどの大爆発となるためだ。ところが今回の観測では、衝突前のブラックホールがこの範囲にあることが分かった。
VIRGOグループのミケーラ・マペッリ伊パドバ大学教授は「小さなブラックホールの合体か、大きな星同士の衝突か、あるいはもっと風変わりなプロセスでできたのだろうか。恒星の終末や、その後にできるブラックホールの質量について、理解を見直すべきかもしれない。今回の観測はブラックホール形成の研究に大きく貢献する」と指摘。LIGOグループのアラン・ワインスタイン米カリフォルニア工科大学教授は「多くの疑問を提起するものになった。何ともエキサイティングなことだ」としている。
今回の観測は太陽の100~10万倍の質量を持つ「中質量ブラックホール」の初観測となった。銀河の中心には太陽の数百万~数十億倍の重さを持つ「超巨大ブラックホール」があり、これらは中質量ブラックホールが衝突、合体してできたとの見方がある。今回の観測は超巨大ブラックホールの謎を探る手掛かりとしても注目されそうだ。
重力波は、質量を持つ物体の存在による時空のゆがみが、物体の運動により周囲に光速で伝わっていく現象。2015年にLIGOグループが初観測した。米欧に続き日本も今年2月、観測施設「KAGRA(かぐら)」(岐阜県飛騨市)で本格観測を開始した。
今回の成果は米国の物理学誌「フィジカル・レビュー・レターズ」と天体物理学誌「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」に2日掲載され、両グループが同日発表した。
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