名古屋工業大学(名工大)は9月9日、富士電機、電力中央研究所、昭和電工、産業技術総合研究所(産総研)と協力し、次世代半導体の1つSiC中の電気特性の微細な分布を3μmの空間分解能で測定する装置を開発したと発表した。
同成果は、名工大大学院工学研究科の加藤正史准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、学術誌「Journal of Applied Physics」に掲載された。
SiCはSiを用いたパワー半導体を超える性能を実現できる次世代パワー半導体として期待されている半導体材料で、一部ではすでに活用が進んでいる。しかし、SiCパワー半導体は、現状ではその高い性能をフルに発揮できているとはいえない。その性能を最大限発揮させるためには、結晶内部の電気特性の分布を制御する必要があるとされているが、SiCパワー半導体を作製した後の電気特性分布が、実際に設計通り制御されているのかを可視化することが難しいという課題があった。
加藤准教授らは今回、開口数0.65の対物レンズを通して、電子と正孔を作る波長の短いレーザー(355nm)と、電子と正孔により吸収される波長のレーザー(405nm)を集光してSiCに照射する装置を開発した。この装置の特徴はふたつ。ひとつ目は、光を絞れる開口数の大きい対物レンズを使用していること。ふたつ目は、波長405nmという比較的短い波長の光を使うことで、狭い領域のみの電子と正孔の量を観測できることで、これらにより電子と正孔の量の時間変化、つまり電気特性の時間変化は、透過する405nmの光の強度の時間変化により測定することが可能となったという。
そして今回の研究で測定されたSiCのサンプルのひとつには、意図的に不純物としてバナジウムを含む11μmの薄い層を作ることで、ダイオードの性能向上を図ることが試みられているが、その層で実際に電子と正孔が速く消えているのかは、これまでは確認できていなかったという。測定の結果として、バナジウムが入っていないサンプルでは均一な分布となっているが、バナジウムを入れたサンプルでは、バナジウムが入っている層で小さい1/eライフタイムの値を示すことが確認されたという。これは、サンプルの電気特性が設計された通りの分布を有していることが可視化できたことを意味しており、この結果から、観測装置の空間分解能がおよそ3μmということが示されたとする。研究チームによれば、この観測装置は3μmの分解能での測定のみならず、測定条件を調整することで電子と正孔の消える速さの正確な値を見積もることも可能だという。
なお、研究チームでは、今回はSiCダイオード内部のバナジウム導入の効果を可視化したが、ほかの要因によるSiCの電気特性分布も可視化することも可能としており、こうした観測を進めることで、今後、SiCパワー半導体の高性能化および製造コスト削減につながることが期待されるとしている。