特定外来生物「ヒガタアシ」が原産地の米国から直接ではなく、意図的に導入した中国を経由して国内に侵入したとみられる、と近畿大学農学部の早坂大亮准教授(生態リスク学)らの研究チームが発表した。遺伝子解析に貿易統計を組み合わせた新機軸の手法で突き止めたという。この手法はさまざまな外来種の水際対策に応用できそうだ。
ヒガタアシは干潟や河口域に育つイネ科の多年草で、丈は3メートル近くに成長する。繁殖力が強く生えた所に砂がたまるため、干潟を造成する目的で中国などが導入した。ところがその後、意図しない国にも広がって干潟を覆い、在来種を妨げるなどして生態系に打撃を与えている。日本では2008年に愛知県豊橋市で初確認され、これまでに愛知、熊本県で侵入を確認。14年に外来生物法の「特定外来生物」に指定された。駆除が進むが熊本県の一部では依然、拡大しているという。
研究チームは両県の4河川に侵入したヒガタアシの遺伝子を調べ、米国、中国、香港、台湾のものと比較するなどした。その結果、日本のヒガタアシの集団はいずれも、原産地の米国東海岸のうち、特にフロリダ半島周辺を起源とする集団と遺伝子のタイプが一致。このタイプは東アジア、特に中国で多くみられるという。
さらにヒガタアシが貿易を通じて侵入したと考え、これらの河川に近い熊本、八代、三河の各港の過去11年の貿易統計を調べた。いずれも中国との貿易額が大きい傾向にあり、しかも額が増加した時期がヒガタアシの侵入時期とほぼ一致。このことから、日本のヒガタアシ集団は中国を経由して侵入した可能性が高いことが分かった。
また遺伝子解析により、国内のヒガタアシには愛知県1、熊本県2の計3グループがあることが判明。それぞれ独立に、ごく少数の個体が侵入して定着した可能性があるという。
研究チームによると、米国では東部産の牡蠣(かき)が運ばれたことがきっかけで、西部にヒガタアシが広がったとされる。早坂准教授は「中国は稚貝の一大供給地。推測でしかないが、日本にも同様に侵入した可能性がある」とする。船のバラスト水に混じって運ばれたとの見方もある。
遺伝子解析のみでは、意図せず侵入した外来生物のルーツは分かっても、ルートを明らかにするのは困難。侵入を防ぐ水際対策の大きな課題となっている。早坂准教授は「侵入後の防除や根絶も大切だが、水際阻止が最も効果的だ。貿易統計を組み合わせる文理融合のアプローチを他の外来種にも適用すれば、侵入予測や効率的な対策につながるだろう」と述べている。
研究チームは近畿大学、国立環境研究所、兵庫県立大学、兵庫県立人と自然の博物館、ヒガタアシの駆除団体「日本スパルティナ防除ネットワーク」で構成。成果は7日、スイスの植物科学誌「フロンティアズ・イン・プラント・サイエンス」に掲載され、近畿大学などが同日発表した。
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