Armは、米国国防総省の研究開発部門である国防高等研究計画局(DARPA)との間に、DARPAの研究者たちがすべての市販のArmテクノロジーへのアクセスできるようにする3年間のパートナーシップ契約を取り交わしたことを発表した。
DARPAが掲げる米国半導体産業の復興計画「Electronics Resurgence Initiative(ERI)」の勢いをこれまで以上につけることを目指し、DARPAののプログラムをサポートする米国の研究コミュニティは、今回の合意によりArmの主要なIP、ツール、サポートを迅速かつ簡単に利用することで、さまざまな分野のイノベーションを加速させることができるようになるとArmでは説明している。その適用範囲も幅広く、IoTのような組み込みセンサからHPCまで、さまざまなArmテクノロジーを活用することで、ERIのプロジェクトを検証から実装、実用化に向けた取り組みを効率よく移っていけるようにすることを目指すという。
DARPAのマイクロシステムテクノロジオフィス(MTO)にて半導体設計の自動化と安全なハードウェアプログラムを率いるSerge Leef氏は「DARPAのコミュニティがArmの先端テクノロジーを活用できるようになることは、画期的な科学および工学の進歩だけでなく、商用アプリケーションとして技術を活用することを加速させることにも必要である」と、今回の意義を述べている。
Armが米国の半導体産業の復興を支援する背景
今回のパートナーシップは、単にDARPAがArmの市販サービス(IP、ツール、サポート)を利用できるようになったというものであり、特段、ArmとDARPAが協力して、DARPA専用IPを開発するというようなものではない。言い方を変えれば、ArmがDARPAへ自社サービスを販売することに成功したということとなる。
米国防総省は自国内で軍事防衛用の超微細な最先端ロジックデバイスを製造することができないため、米国はTSMCをいわば力ずくで自国内に工場を建設させる約束をとりつけた。TSMCにとっては、米国での軍事用チップの少量生産では採算が合わないため、1兆円クラスの米国政府からの補助金を期待しているという。現在、補助金を含む米国半導体技術・製造強化法案が超党派議員によって米国議会に2件提出され審議中である。
半導体の設計面でも、DAEPA関係者が先端HPC向けロジックデバイスを5nm以下のプロセスで開発するには、米国の独自技術だけでは無理で、Armの市販サービスを使わなければならないということだろう。
今回の契約の中で出てきたERIは、遅れてしまった米国国防総省の軍事半導体技術を文字通り「復興」するための研究資金ファンディングプログラムで、やはり設計・製造両面で外国勢の力を借りなければならないのが実情である。
TSMCについては、米国への工場誘致などにより、Huaweiとの縁を切らすことにも成功わけだが、米トランプ政権としては、Armについても中国勢との縁を切らせたいというところであろう。しかし、中国政府の意向もあり、現在、Armの中国法人であるArm Chinaの過半の所有権は中国政府系ファンドが握っている。しかもArmとArm Chinaはトップの人事をめぐりすでに数か月にわたってゴタゴタが続いているうえ、Armの親会社であるソフトバンクグループは、投資による巨額損失の補填のため、Armを売却する方向で米NVIDIAなどと交渉していると伝えられており、Armの置かれた状況は複雑である。