シャープは2020年8月28日、ジャパンディスプレイ(JDI)の白山工場(石川県)の土地、建物および付帯設備等の資産を3億9000万ドル(約412億円)で取得したと発表した。
シャープからの発表文には、決済方法として「ジャパンディスプレイが同社顧客に対して負う前受金返還債務のうち上記取得価額に相当する金額を当社が引き受けます」と記載されているが、ここでいう顧客とはAppleを指すとみられ、同工場の設備を取得しようというAppleの意向を受けたいわば共同買収とみられる。
JDIは、すでに3月の時点で、シャープとは異なる(おそらくAppleとみられる)顧客に白山工場の生産装置の一部を2億ドルで譲渡すると発表していたが、さらに追加で8500万ドル分の譲渡を実施することでも合意しており、今回のシャープへの売却と併せて、白山工場全体の売却額は約713億円規模となる。
JDIは、業績・財務改善策として2019年6月に構造改革を発表し、その一環として白山工場の一時稼働停止を決定し、同年7月から生産を停止していた。
米国に本拠を置くFPD市場動向調査会社であるDSCCのアジア代表アナリストの田村喜男氏は、「既存のApple iPhone向けLCD増産のための生産ラインの買収のみが目的ではなく、マイクロLEDなどの次世代自発光型ディスプレイへの投資をAppleと共同で進めるなど、買収の先の目的があるとみられる。既存LCD生産ラインの再編に基づくポジティブな買収ととらえてよいと思われる」と、シャープによる今回の白山工場買収の目的についての動きをみる。
また、シャープによる買収費用については、「白山工場のLCDの生産能力は、稼働率80%、歩留まり85%程度とした場合、6.1インチ換算で年産5000万枚に相当する。パネル1枚当たりの利益率を5%程度とすると、1年あたり150億円の収益となり、3年で今回の買収額を回収できる計算となる」と、十分回収可能であるとの見方を示している。
加えて、シャープの現在の液晶パネルの生産ラインの状況について、「iPhone向けLCDは現在、亀山第1工場(第6世代のLTPS LCD)にて生産されているが、これを2021年第1四半期から白山工場へ生産移管するものとみられる。その後、三重工場(多気工場)が生産している第4.5世代でのLTPS LCDの月産3万枚分は、早晩閉鎖するか、多用途へ展開していく可能性があるとDSCCでは考えている。車載用LCDはすでにLTPS LCDのみの受注に絞っており、亀山第1工場にて2020年から生産を開始するなど、今後は同工場で車載用LCDの増産を進め、月産投入枚数1万枚以上を目指していくことになる」と、今回の買収を機に再編が進むとの考えを示している。
なお、白山工場の現状だが、譲渡に向けて2020年3月期第4四半期よりテスト稼働を行っているとJDIでは説明している。