日本IBMは8月27日、オンラインでIBM Cloudの機能強化や今後のロードマップに関する記者説明会を開催した。説明会には日本IBM IBM Cloud Platform 事業部 事業部長 理事の田口光一氏と、同 IBM Cloud テクニカル・セールス部長 シニア・アーキテクトの安田智有氏が出席した。
第2世代のIBM Cloudが持つ強み
まず、田口氏はIBM Cloudの2020年上半期における振り返りについて触れた。同氏は「上半期は12項目に及ぶハイライトがあり、その中でも『アベイラビリティゾーンの拡大』『第2世代クラウドアーキテクチャの順次展開』『Power Architectureの提供開始』『暗号鍵管理を含むLinuxONE上のサービス提供開始』『IBM Cloud Satelliteのベータ版提供開始』『金融向けサービス&Spanugoの買収』の6項目が特徴的なものだ」と述べた。
その上で同氏は「2年以上かけてIBM Cloudの機能強化に取り組んでおり、『Enterprise Grade(エンタープライズグレード)』『Secure & Compliant(セキュア&コンプライアンス)』『Cloud Service Anywhere』の3つが強みだ。これらの強みは今後IBM Cloudの機能拡張を行う上での原則となる」と話す。
エンタープライズグレードは、主要なエンタープライズアプリケーション、ワークロードが稼働する実行環境(IBMでは企業システムのうち20%はクラウド化されているが、80%は依然としてオンプレミス上に存在していると指摘)のLift & Shiftを、いかに実現するかについて支援。セキュア&コンプライアンスでは、業界最高水準のセキュリティ機能や主要な業界コンプライアンスへの準拠、Cloud Service AnywhereはKubernetesコンテナプラットフォームの「Red Hat OpenShift」をベースに、今後見込まれるコンピューティングの利用形態の広がりに対して、オープンで一貫した分散クラウド基盤の提供を可能としている。
そして、安田氏が3つの強みに準じたIBM Cloudの代表的な機能拡張について説明した。
同氏は、これまでのIBM Cloudアーキテクチャの変遷に関して「2011年からクラウドサービスのSCE(SmartCloud Enterprise)を提供し、2013年にIaaS(Infrastructure as a Service)のパブリッククラウドとして買収したSoftLayerの提供を開始した。時期を同じくして、2011年から開発者向けPaaS(Platform as a Service)であるBlueMix(当時の表記)を提供し、2016年に両サービスを統合してBluemix、その後はWatosonの機能も組み込み、2017年にIBM Cloudに名称を変更し、Red Hat OpenshiftをはじめとしたRed Hatのソフトウェア製品を加えている」と述べた。
同社では、2011年にパブリッククラウドとしてサービスを開始した当時を第0世代と位置付け、独自のアーキテクチャに基づいたコンピュートリソースは仮想サーバ(x86)、1契約で1カ所のデータセンター(DC)が利用できる提供形態とし、IaaSのみ、PaaSのみと別々に提供していた。
2013年のSoftLayerの買収に伴い第1世代がスタートし、SoftLayerのアーキテクチャを踏襲しており、コンピュートリソースは仮想サーバと物理サーバ、1契約で同社の世界中のDCが利用でき、IaaSとPaaSを1つのプラットフォームで現在も提供している。
2019年第1四半期からは、第2世代として同社独自のアーキテクチャに基づき、コンピュートリソースは仮想サーバ、物理サーバに加え、AIX、IBM i、IBM zとなり、1契約で世界中のDCのほか、顧客のオンプレミス、エッジ、他社のIaaSも含めて管理ができる。プラットフォーム自体をクラウドネイティブ化し、可搬性の優れたサービスの提供や高可用の仕組みの提供を可能としており、VPC(Virtual Private Cloud) Gen2(第2世代インフラ)と呼んでいる。
今後の注目サービスとロードマップ
こうしたIBM Cloudの変遷を踏まえ、安田氏は今後注目のサービスとロードマップにとして「VPC Gen2」「大阪リージョンの増強」「IBM Cloud Satellite」「IBM Cloud for Financial Services」「Power Systems Virtual ServerとHyper Protect Virtual Server」の5点を挙げている。
VPC Gen2は第1世代と比較して、DC数は19から43、CDNのエッジ拠点数が20超から200超、ベアメタルのマザーボード種類が20種類から70種類、プロセッサの種類が2種類から4種類、東京リージョンのインターネット帯域が20Gbpsから100Gbps超、仮想サーバの種類が1種類から5種類、仮想サーバのネットワーク最大帯域が1Gbpsから80Gbpsにそれぞれ拡充し、仮想サーバ100台同時のデプロイ時間が60分から1分に改善している。
大阪リージョンの増強については、IBM Cloudの同リージョンが第3四半期に開設を予定し、大阪以外では年内にブラジル、フランス、カナダに新規開設を予定。現在は東京リージョンにはアクセスポイントが2カ所、DCは3カ所にあり、グローバルにおける同社のDCとの通信量は無料だ。これに大阪リージョンのアクセスポイント1カ所、DC3カ所が加わることになり、グローバルのDCのほか、東阪の通信も無料となる。これにより、バックアップや大容量データを国内から国外に送る場合でも通信量を気にすることなく、必要なデータを必要な場所に迅速に届けることが大阪からも可能になる。
分散型クラウドであるIBM Cloud Satelliteに関しては、10月に正式にサービスインを予定。同サービスは、Red Hat Enterprise Linuxがあれば管理の対象にでき、OpenShiftを導入した上でコンテナ化されたユーザーのアプリとIBM Cloud上で提供されているサービスをIBM Cloudだけでなく、顧客が指定するオンプレミスDCやパブリッククラウド、エッジに各種マネージドサービスをデプロイできるという。
すでに提供しているIBM Cloud for Financial Servicesは、金融サービス向けクラウドで30社を超えるISV各社のアプリケーションの利用を可能とし、クラウドのセキュリティ管理に加え、アプリケーションのセキュリティ管理のニーズあるため、ISVを含めて一貫したセキュリティ管理ができるポリシーフレームワークを実装し、コンプライアンス遵守状況もリアルタイムに確認を可能としている。現在、ポリシーフレームワークが実装されている環境はVMware on IBM Cloudのみだが、今後はクラウドネイティブやRed Hat OpenShift環境向けにリリースを予定。
Power Systems Virtual Serverは、AIXとIBM iがIBM Cloudで利用可能となり、すでにグローバルでは提供開始しているが東京リージョンでは11月、大阪リージョンでは12月に提供開始を予定し、参考価格は月額1万5000円(0.5core、8GB RAM、50G Tier1 Disk、AIX)~。一方、Hyper Protect Virtual ServerではLinuxONEがクラウドで利用可能となり、東京リージョンでは2021年にサービス開始を予定。最も厳しい暗号基準のFIPS 140-2 Level4の認定を取得し、コンテナやマネージドデータベースのプラットフォームとしても利用を可能としている。参考価格はLinuxONE(1vCPU、4GB RAM、100GBストレージ、Ubuntu)で月額1万9000円~。
最後に、安田氏は「IBM Cloudは3つの強みに沿った形で機能拡張しており、今後も3つの軸に沿って多様なサービスを拡張していく」と力を込めていた。