露光装置メーカー最大手でEUVリソグラフィを唯一提供するASMLは、台湾・台南に「グローバルEUV技術トレーニングセンター」を開設したと8月20日に発表した。

同センターは、TSMCの最先端半導体工場が立地する台南サイエンスパークに設置され、EUV露光装置の実機を用いた半導体企業のエンジニア向けトレーニングが提供されるという。

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    ASMLの量産対応の最新型EUV露光装置「NXE:3400」 (出所:ASML Media Library)

具体的には、クリーンルーム内でのEUV露光装置の操作練習を含む年間数千時間クラスの包括的なトレーニングコースが提供されるという。開設時点で14人のトレーナーが在籍しており、ASMLでは、自社と顧客の双方ともにEUVエンジニアを毎年360名育成することを目指すとしている。

ASMLによると、初心者エンジニアがEUVの技術を学び、ある程度成熟したエンジニアになるまでには18か月かかるという。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響で、各国ともに海外出張に制限がかかるようになっており、同センターを開設することで、ASMLと顧客企業の双方がともにEUVエンジニアを、EUVのインストールベースの台数で世界最大地域である台湾で育成できるようになり、費用対効果の高いソリューションの提供が可能になるともしている。

なお、ASMLは韓国にもEUVトレーニングセンターを設置しており、新たなEUVエンジニアを求める顧客の需要の高まりに対応するトレーニングコースを提供しているという。

なぜ台湾にトレーニングセンターを開設したのか

ASMLは2019年、EUVリソグラフィ装置を台湾、韓国、米国などの先進半導体メーカーへ26台納入し、2020年も35台前後を納入する予定としている。

半導体プロセスの微細化ニーズは止まる気配はないことから、今後も毎年数十台規模のEUV露光装置がオランダから出荷することとなる。しかし、すでに新型コロナウイルスの影響により、装置は導入企業の現地工場に搬入できても、立ち上げ調整を行う専門の技術者が入出国管理および健康安全上の理由で現地に赴くことは難しいという事態が生じている。

また、稼働中のEUV露光装置がダウンしてしまった場合、早急に現場に出向いて修理や調整など複雑な作業をおこない、一刻も早く復旧させる必要があるが、現状、海外から現地に赴いてそれを行うといった行動も難しい。こうした課題の解決に向け、ASMLでは新型コロナが世界的に感染拡大する初期段階よりARを活用して、必要とされる分野の専門家が顧客工場のクリーンルームにバーチャルに立ち入り、トラブルシューティングをしたり、現場のエンジニアに指示を出せる仕組みを構築。そうした取り組みの一部は同社のWebサイトにも公開されているほか、SEMICON West 2020においても紹介されるなど、注目を集めている。

しかし、ARを活用した遠隔操作には問題点もある。ストリーミングカメラはもちろん、半導体の製造現場にカメラを設置することは依然として多くの半導体メーカーでタブーになっていることが1つ。また、カメラを設置できたとしても、通信に際してセキュリティ上の危険がでてくる。そして、ARを活用しても必ずしもすべての問題が解決できるわけではないという点も注意が必要となってくる。

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    ASMLのフィールドエンジニアによる現場での作業の様子 (出所:ASML)

やはり実物を触れることでわかることもあるということで、EUV露光装置を多用する半導体工場の近くにトレーニングセンターを設置することを決めたようである。これにより、顧客である半導体企業や自社の現地子会社の技術者を、現地で育成することが可能となり、オランダのASML本社に赴き、トレーニングを受けるという時間と費用を削減できるようになるほか、さらに今回のような世界的なパンデミックによる海外渡航に対する制限が生じても顧客企業に対するサポート体制にほころびが生じることなく対処することができるようになったとASMLでは説明している。

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    ARグラスを装着してEUV露光装置の遠隔操作や現場への指示を出すイメージ (出所:ASML)