文部科学省傘下の科学技術振興機構(JST) 経営企画部エビデンス分析室は、世界のトップ医学系科学技術論文誌(ジャーナル)における2020年1月以降の新型コロナウイルス感染症関連論文数の発表が急増した現象を分析・解明中だ。
その分析・解析の速報版によると、査読付き学術論文の“早期公開”数が急増し、Web of Scienceで公開されている新型コロナウイルス感染症関連論文数は2020年6月で1万490件、7月分の速報値(概算)では2万件まで増えているとの実態を明らかにしている。
調査の対象としたWeb of Scienceは、米国クラリベイト・アナリティクス社が提供している引用文献情報のインターネットオンラインデータベースである(米クラリベイト・アナリティクス社は旧トムソン・ロイター社の知的財産・サイエンス事業を基に構築された企業)。
JSTのエビデンス分析室は、世界の5大医学科学技術誌といわれている「BMJ(英国医師会誌)」、「LANCET」、「The New England Journal of Medicine」などを含む論文掲載数が多い医学科学技術誌9誌の新型コロナウイルス感染症関連論文数を調査。2020年1月~6月の半年間で、BMJに459本、Medical Virologyに215本、LANCETに170本と急増していることを確認した。掲載論文数が一番多いBMJに掲載された新型コロナウイルス感染症関連論文の中に含まれるキーワードとしては「Clinical Article」が780本とかなり多く、続いて「Coronavirus Disease 2019」が313本、「Epidemiology」が287本、「Pandemic」が279本、「Coronavirus Infection」が264本と続くとの分析結果となった。
この新型コロナウイルス感染症関連論文数は、2020年3月時点では908本だったが、4月に2836本、5月に6884本、6月に1万490本と指数関数的に増えていることも明らかになった。7月分では速報値として2万本を越したと概算している。
この新型コロナウイルス感染症関連論文数が医学科学技術誌で指数関数的に増えている理由は、査読付き科学技術論文誌でも「論文の中身をその分野の専門の科学者・研究者などが査読する作業時間を加速(短縮)して、早期“出版”している実態が浮かび上がってきた」と、エビデンス分析室は語る。2010年代は「論文を投稿して査読を受けて、その当該医学科学技術誌に採択されるまでに約125日かかり、さらに出版までに約25日かかっていた。これに対して、最近の新型コロナウイルス感染症関連論文では、投稿から採択までに22日、出版までに14日という極端な出版事例が観測される極端なケースまででている」と解説する。「この“Early Access”論文は、7月7日時点までに3200報があることが、Web of Scienceから分かる」と、エビデンス分析室は解説しており、新型コロナウイルス関連論文が28.8%を占める計算となる。
また投稿時から査読時間が短縮され、まずは電子版として投稿論文が公開され、その後は(従来の)紙の科学技術論文誌の印刷待ちとなるケースが多いようだともみている(一般的には電子版と紙の印刷物は同じ論文の中身であると考えられている)。
さらに新型コロナ論文と分類できる論文数の国別では7月はじめ時点までで、米国が3026本、中国が2034本、イタリアが1382本、イギリスが1319本と続く。日本は189本と16位である。傾向としては、米国、中国に続いて、イタリアや英国などの欧州諸国が多く、ドイツ、フランス、スペイン、スイスなども続いている。
最近2カ月間の分野ごとに算出される被引用件数上位の速報性を持つ“ホットペーパー”での動向では2020年3月から4月の2カ月間に臨床医学分野の論文が急増している。「新型コロナウイルス関連では、北海道大学大学院医学研究院の西浦博教授の論文2報も含まれている」という。
日本での新型コロナウイルス研究の論文の傾向では「2020年4月以降は症例、疫学(含む数理モデル)、医療現場での感染防止、治療薬・治療法、病理解明のテーマが増えていた」という。ただし、6月分までの解析途中の速報値としての概要である。
こうした新型コロナウイルス関連論文の早期公開が急増している事態に対して「供給過多、スピード重視の動向による科学論文の“ポストコロナ”傾向を今後も分析し続ける構え」としている。この根底については「科学論文の在り方の変化の是非を考察する必要があるからだ」と説明している。