米Cerebras Systemsは、日本法人として、セレブラス・システムズ合同会社を、8月7日に設立したと発表した。米本社が100%出資し、日本ではパートナーを通じた間接販売でのみビジネスを展開する。代表執行役社長には、江尾浩昌氏が就任する。

Cerebras Systemsは、2016年4月に設立。2019年11月に、世界最速AIスーパーコンピュータ「Cerebras CS-1」を発表した。

  • Cerebras Systems概要

CS-1は、業界唯一のウェーハースケールプロセッサである「Cerebras Wafer Scale Engine (WSE)」を搭載しているのが特徴で、WSEには、AIに最適化された40万個のコンピュートコア、1兆2000億個以上のトランジスタが、4万6225平方mmのサイズに収められており、世界最大のチップとなっている。

  • CS-1

  • 「Cerebras Wafer Scale Engine (WSE)」

米Cerebras Systemsのアンドリュー・フェルドマンCEOは、「WSEは、NVIDIAのA100に比べて、56倍の大きさがあり、レストランで使用される大皿ほどのサイズとなっている。レースカーのエンジンを、フォルクスワーゲンの小さな車体に搭載するのは困難であるのと同じように、それに見合う筐体に入れるためにCS-1を開発した」とする。

  • 米Cerebras Systems アンドリュー・フェルドマンCEO

Cerebras CS-1は、アルゴンヌ国立研究所や、ローレンス・リバモア国立研究所のほか、ピッツバーグ・スーパーコンピューティング・センター(PSC)のAI スーパーコンピュータ「Neocortex」向けなどに導入されている。

米Cerebras Systems 製品管理担当シニアディレクターのアンディ・ホーク氏は、「アルゴンヌ国立研究所では、AIモデルを何倍も速く走らせることができ、新型コロナウイルス感染症対策やがん治療に関する研究を行うなど、社会の課題を解決するための貢献を行っている。そのほかにも、大手ソーシャルメディア、バイオテクノロジー、製薬、金融、保険、ヘルスケア、製造分野など幅広い企業で利用している」などとし、「CS-1は、100個以上のGPUを組み合わせたものよりも高速であり、プログラムが容易で、世界中の研究者が利用しやすい環境を整えている。より正確なAIモデルを構築でき、AIによる洞察が得やすくなり、データの価値を高めることができる」と述べた。

  • 米Cerebras Systems 製品管理担当シニアディレクター アンディ・ホーク氏

フェルドマンCEOによると、米Cerebras Systemsには、現在、237人の社員が在籍し、217人がエンジニア。そのうち約3分の2がソフトウェアのエンジニアだという。売上高は70億ドル、403件の特許を持っているとした。

日本では、2019年から、東京エレクトロンデバイスが戦略パートナーとして事業を展開。国内では、自動車産業をはじめとする製造業や、キャリア、ISP、ハイパースケーラーなどへの導入実績を持つ。

米Cerebras Systemsのアンドリュー・フェルドマンCEOは、「この3年間を経て、日本の顧客が何を求めているものはなにかということがしっかりと把握できた。そして、米国や欧州との市場の違いも理解できた。こうした経験をもとに、日本で事業をスタートする基盤が整い、投資を行うタイミングが訪れた。最速のAIコンピューティングを日本の市場に投入できる」と述べた。

セレブラス・システムズの社長に就任する江尾浩昌氏は、これまでソフトバンクとの合弁会社であるCohesity Japanの代表取締役を務めており、日本での事業を立ち上げた手腕を買われた。それ以前にも、キャリティ・ジャパンの代表取締役、フュージョン・アイオーのカントリーマネージャー、アイシロン・システムズの代表取締役、ネットアップのアライアンスパートナー本部長などを務め、IT業界では30年以上の経験を持つ。

  • セレブラス・システムズ 代表執行役社長 江尾浩昌氏

  • セレブラス・システムズ概要

今回の会見では、「国内顧客に対する⽀援強化」、「国内販売体制の強化」、「優秀な⼈材の確保」、「業界団体、研究機関との連携」、「国内要求事項の⽶国本社へのフィードバック」、「⽇本市場に⻑く根づくビジネス基盤の構築」という6つの観点から、日本法人の方針を示した。

  • セレブラス・システムズの活動ミッション

「国内顧客に対する⽀援強化」では、検証環境と⽀援体制の整備、国内顧客向けサービス/サポート体制の整備、協働製品の開発⽀援を掲げ、「国内販売体制の強化」では、戦略パートナーへの販売⽀援体制の強化、新規戦略パートナーの開拓、国内テクノロジーインテグレーターとの連携をあげた。「現在、東京エレクトロンデバイスが戦略パートナーとなっているが、今後は、新規の戦略パートナーの獲得も主なミッションになる」とした。 「優秀な⼈材の確保」では、データサイエンティストやソリューションセールス、プロダクトエンジニアを積極的に獲得。「業界団体、研究機関との連携」では、企業や研究機関との協創機会の発掘、国内ベストプラクティスの創出、国内AI市場拡⼤への貢献をあげ、「日本の企業や研究機関が持つ知見と、セレブラスの革新的技術を共有することで、AI市場の拡大に貢献したい」と述べた。

「国内要求事項の⽶国本社へのフィードバック」では、⽇本品質⽔準の実現や、独⾃ビジネス要件に対するナレッジシェアの実現をあげ、「⽇本市場に⻑く根付くビジネス基盤の構築」では、間接販売中⼼のビジネスプロセス確⽴や、透明度の⾼い本社との連携構築、新様式に適合した労働環境の実現をあげた。

「日本市場の独特の要求を本社が理解することが、日本への安定的な製品や技術に供給につながる。要求を的確に、本社にフィードバックする点に力を注ぎたい」としたほか、「日本の顧客は、組織体制を何度も変えることに不安を感じる。日本では、息が長いビジネスサイクルといった日本の独自性もあり、それが市場に対する本気度を示すことにもなる。この点でも本社の理解を得ていることができている。また、日本では、エンジニアの75%が、ベンダーやSIerに所属している。エンドユーザーサイドのエンジニアが少ないため、日本では間接販売が中心になる。日本法人と本社、パートナーが高い透明度を持った関係を保つことが大切である」とし、外資系企業での経験が長い江尾社長ならではの組織づくりが日本で進められることになりそうだ。

さらに、中期戦略についても説明。2020年12月までの2020年度は、「スタートアップフェーズ」と位置づけ、既存検証顧客に対する重点的⽀援や、顧客や戦略パートナーといった新規市場の開拓、業界団体への参加、⼈材採⽤活動、新様式に合わせた事業戦略の⽴案を進める。

  • 中期戦略

また、2021年1月からの2021年度においては、「先進顧客との連携や認知度向上フェーズ」とし、先進顧客に対する導⼊促進、認知度向上を⽬指したマーケティング活動の強化のほか、研究開発機関などの連携によるリファレンスの発表、顧客事例の公開などを進める。 そして、2022年度は、「拡販強化フェーズ」として、販売エコシステムの構築強化、営業販売体制の強化、業界団体への参加、⼈材採⽤活動などに取り組むという。

江尾社長は、「2022年には、日本において、100億円規模のビジネスを想定している」と述べ、「GPUクラスタではスケーリングに課題があり、増強の都度、ベストプラクティスでのチューニングが必要になり、研究者とって、研究時間が削がれるという課題がある。また、企業では、データサイエンティストの獲得が急務だが、高額を払って獲得した優秀な人材の待ち時間が多くては無駄である。むしろ、⼈材の数ではなく、研究開発の速度と質が重要になっている。CS-1は世界最⼤のCPUを搭載する世界最速のAIスーパーコンピュータであり、15インチラックサイズのなかに、40万コアを搭載することができる。また、複雑なクラスタ構築も不要で、設置からシステムへの接続時間が⼤幅に短縮できる。日本の研究者が、研究に没頭できる時間が増える」とした。

一方、東京エレクトロンデバイス 執行役員 CN BU 副BUGM 上善良直氏は、米Cerebras Systemsの協力を得て、ハイパースケーラーにおける自然言語処理に関するトレーニングおよび推論のPoCを行っていること、国内製造業とは、高性能画像認識アプリケーションのトレーニングと推論に関するPoCを行っていることを示したほか、2020年秋には、東京・新宿の同社新宿サポートセンター内に、CS-1を設置し、デモおよび検証を行うことができる「TED AI Lab」を設置する計画を明らかにした。

  • 東京エレクトロンデバイス 執行役員 CN BU 副BUGM 上善良直氏

「東京エレクトロンデバイスは、国内において、唯一、実機を持ったティア1パートナーである。セレブラス・システムズと歩調をあわせたコラボレーションを行い、国内ユーザーを発掘できる点、そして、東京エレクトロンデバイスが取り扱う高性能サーバーやスイッチといった他の製品とあわせたインテグレーションを行い、評価環境を提案できる点が強みになる」と述べた。