海底の約1億年前の地層から生きた微生物を発見した、と海洋研究開発機構(JAMSTEC)などの国際研究グループが発表した。餌を与えて培養に成功したことで確認した。恐竜が生きていた中生代白亜紀から栄養の乏しい極限環境で生き永らえており、生命の生存限界の理解を進める成果となった。
グループは2010年に南太平洋の外洋を中心とした海底7カ所を掘削して得られた、430万~1億150万年前の地層の堆積物を試料として使用。これに酢酸やブドウ糖、アンモニアなど微生物の餌となる物質や、酸素を含ませて培養を試みた。もし微生物が生きていれば、餌を食べると考えた。
その結果、1億150万年前の地層のものも含め、21日目には微生物が餌を食べ、68日目には単位面積当たりの細胞数が最大1万倍以上にまで増殖した。堆積物中の微生物は平均77パーセントが生きた状態で、特に1億150万年前のものは99.1パーセントが生きていたという。
1億150万年前などの試料の採取地は陸から遠く離れており、プランクトンの排泄物や死骸などの栄養源が極端に少ない。また細かい粒子の粘土が詰まった地層で、微生物は移動できず閉じ込められてきたと考えられる。グループのJAMSTECの諸野祐樹主任研究員は「このような生きるか死ぬかの瀬戸際にいると思われた微生物が、化学的に分解されることもなく1億年もの間、高い割合で生きていたことに非常に驚いた」と述べている。
2015年にはJAMSTECなどのグループが、酸素濃度の変化などをもとに微生物の生存を推測したことを発表したが、今回は培養実験で直接確認したとしている。
一方、酸素を与えず培養を試みたところ、微生物は餌をほとんど取り込まず、増殖もしなかった。海底の地層には酸素がない状態で活発になるタイプの微生物が多いことが知られていたが、酸素が地層深くまで存在する外洋では、酸素を必要とする微生物のみが生き永らえていたことが分かった。
今後は厳しい環境で微生物が長期に生き延びる仕組みの解明や、その間の進化の有無、海底の地層のどこに生命の限界があるかの確認などが課題という。
諸野氏は実験について「陸から遠く離れた海底には感染相手となる生物がいないので、人間に感染したり病気を引き起こしたりする微生物がいる可能性は極めて低い。なおかつ、微生物が実験室から外に流出しないよう細心の注意を払っている」とし、安全が確保されていることをつけ加えた。
グループはJAMSTECのほか米ロードアイランド大学、産業技術総合研究所、高知大学、株式会社マリン・ワーク・ジャパン(神奈川県横須賀市)で構成。試料は統合国際深海掘削計画(IODP)により得られた。成果は7月28日付の英科学誌「ネイチャーコミュニケーションズ」に掲載された。
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