ルネサス エレクトロニクスは8月6日、7月30日に開催した第2四半期決算説明会に続く形で事業戦略の説明を行う「Strategy Update」を開催した。同説明会は、車載関連と産業・インフラ/IoTの2つに分けて実施され、産業・インフラ/IoTではIntersil/IDTの合併がうまく推移しており、事業として順調であることが示された。

新型コロナ禍でも予定通りに事業を進めるルネサス

まず同社CEOである柴田英利氏が全体の進捗として、2020年のDesign Winを約6000億円と見込んでおり、2020年前半期はほぼこの半分をきちんと達成できている格好で、予定通りとした(Photo01)。

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    Photo01:オートモーティブは妙に1Hで達成率が高いが、これはオートモーティブは単価が大きいためで、通年に均すとほぼ予想している程度に収まる予定で、1Hの2倍にはならない、との事

産業分野向けとしては、IoTに関してはMCU/MPUのラインナップ拡充と、ソリューション提供の両輪で展開を進めていくとしており、まずMPUに関しては既存の10倍の性能を提供するAIソリューションに加え、100倍の性能を達成するシリコンの投入も開始したとのことで、ほぼ予定通りで進んでいるとした。

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    Photo02:MCU/MPUに関するラインナップは基本的には変わらず。ロードマップはこの後のスライドで出てくる

またHMI(Human Machine Interface)分野ではVUI(Voice User Interface)向けのモジュールを用途に応じて各種提供し始めている事を紹介した(Photo03)。

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    Photo03:カシオとは、Crowd Monitoring(群衆モニタリング)の分野で新しい形での協業をスタートしているとの話だった

このIoTおよびインフラ関連は旧IDTが絡んでくる話だが、5G基地局とデータセンター向けのDDR5が今後急速に伸びると予測されること、およびIoT周りではクラウドやセキュリティ・コネクティビティ、Low Pin Count MCUなどの新しいトレンドへの対応が進んでおり(Photo04)、ここが今後大きく成長していくとする(Photo05)。

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    Photo04:DDR5の話は後で詳しく出てくる

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    Photo05:Azureの話はAzure RTOS絡みの話なのか、Azure IoTのコネクティビティの話なのか、この段階では判別できず。ただ、どちらも関係してくる話ではある

全体を通してみると、同社が「Winning Combos」と呼ぶソリューションが、こと産業・インフラ/IoT分野でも顕著であり(Photo06)、特に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的に感染拡大する現状では予期しなかった分野での伸びが期待できそう(Photo07)という話であったが、そうした例外はあるにせよ、全体としては従来の戦略から大きな変更はないという話であった(Photo08)。

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    Photo06:この話も後で出てくるが、要するにルネサスの製品に旧Intersil/IDTの製品を組み合わせる形でのパッケージソリューションが急速に伸びているということ

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    Photo07:リモートワークに絡んでRemote ActivityとComputer/Communication Infraが、感染防止に絡んでContact-less Applicationがそれぞれ伸びているそうだ

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    Photo08:これは従来の戦略そのままであるが、特に新しい要因はなく、そのまま推進してゆけるとしている

テクノロジートレンドの変化を追い風に事業を拡大

続いて、執行役員常務 兼 IoT・インフラ事業本部長のSailesh Chittipeddi氏より、その産業・インフラ/IoT部門に関するより詳細な話がなされた。

まずメガトレンドで言えば、データセンターと5G、それとインテリジェンス・エンドポイントといった要素が牽引役になるという話はこれまでと変更はないが、SatCom(衛星通信)向けが急速に伸びているという話が新たに加えられた。もう少し詳細な話をすると、ことChittipeddi氏の事業部に関して言えば、スマートフォンのみやや逆風であるが、それ以外の事業分野ではむしろ追い風が吹いているというのが氏の見解である(Photo10)。

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    Photo09:このあたりの数字は、COVID-19の影響が長引きそうだと、多少上乗せされることになるかもしれない

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    Photo10:このところ宇宙開発も色々と盛んであり、それもあってRad Hard(耐放射線半導体:旧Intersil系)の需要も伸びていくと見ている。ただ絶対額としてはそんなに大きなものでは無い気がする

またデータセンター向けに関してだが、旧IDTはDIMM向けのバッファを提供しており、DDRの場合はRDIMMやLRDIMM、それとNVDIMMに少し部品が入る程度であったのだが、DDR5世代ではPMICが標準で入ること、ならびにセンサのためのHubも入る事になるため、世代がDDR4→DDR5に変更になると、それだけで急速に売り上げが伸びることになる(Photo11)。

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    Photo11:DDR5は先日JEDECでの標準化が完了しており、今はDRAMベンダー(やルネサスなど)がモジュール評価用に若干製品を出荷している段階。検証が終わった来年もまだ出荷量はそう多くないだろうが、大手ベンダーがDDR4→DDR5にプラットフォームを変更する2022年以降は本格的に売り上げが増えると思われる

実はこうしたDIMMモジュール向けのバッファやPMICなどを扱っているのは現在3社(Montageと、旧Inphiのビジネスを買収したRambus、それとIDTを買収したルネサス)しかおらず、それもあってマーケットが立ち上がれば相応の売り上げが期待できる(Chittipeddi氏によれば来年後半から立ち上がる、との話だった)。すでに同社のDDR4対応製品は大手ベンダーで検証済であり、DDR5は進行中としている(Photo12)。

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    Photo12:ただこれはMontage/Rambusも同じことである。このあたり、DDR2世代では色々と温度差があったのだが、さすがに現状3社しかないと、どのメーカーも当然同じ様に検証を行っている

注目される5Gについては、すでに5G自体は立ち上がってきているが、それはある意味コンサバティブな構成のものである。これに対してO-RAN Allianceが主導するOpen RANも最近急速に勢いを増してきており、従来の方式でも同社の売り上げにはつながるのだが、O-RANが増えてくると参入できる余地がさらに増える、というのがChittipeddi氏の見立てである(Photo14)。

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    Photo13:問題は主要3社(Nokia、Ericcson、Huawai)の合計がシェアの7割を超え、その3社は左側の構成なことだ

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    Photo14:だからといってRapid I/Oはないだろう、というのが筆者の率直な感想である