市場調査会社の仏Yole Développementは、新型コロナウイルスの影響により2020年のMEMS市場規模は前年比5.2%減の109億ドルに留まるが、長期的には年平均成長率(CAGR)7.4%で成長し、2025年には177億ドル規模に達するとの予測を発表した。
新型コロナの影響で産業分野ごとに明暗が分かれるMEMS市場
新型コロナウイルスの感染拡大にともない、在宅勤務の奨励などによりデータセンター需要が増加する一方、自動車や民生機器向け市場での需要減退が生じた。こうした市況を反映し、YoleではMEMS業界も自動車市場の需要減退の影響を受ける形で車載MEMS分野が前年比27.5%減の15.8億ドルに留まる一方で、産業MEMS分野が体温検出向けサーマルイメージャーなどの好況を受けて同11.5%増の14億ドル、医療用MEMS分野も人工呼吸器などの需要の増加による圧力センサ、流量計、マイクロ流体デバイスなどが好調で同10.6%増の7.7億ドルとなると予測している。
MEMS業界の最大市場は民生用MEMS分野である。しかし、民生機器は新型コロナの感染拡大の影響による消費者の購買意欲の減退が生じており、民生用MEMS分野も同2.6%減の66.9億ドルにとどまる見通しである。ただし、同分野にはスマートフォンも含まれており、5Gの普及を背景にRF MEMS(BAWフィルタ)は好調で、同製品市場を含めない場合、民生用MEMS分野は同16%減と大きく下げる見込みとYoleでは予測している。
成長続くRF MEMS市場
MEMS市場をデバイス別に見た場合、2019年の最大市場はRF MEMSである。次いで圧力センサ、マイクロフォン、加速度センサという順になっているが、これは2025年になっても変わらないと見られている。しかもRF MEMSについては2019年~2025年までのCAGRが15.5%と今後も成長が期待されている。
MEMSサプライヤは、センサの低価格化競争を避けるため、高付加価値化へと舵を切ろうとしている。その方向性としては、高精度化、低消費電力化、組込型インテリジェンス、医療用アプリケーション向け生体適合性といったものが挙げられる。また、そうした技術が活用されるアプリケーションとしては、AR/VRなどが挙げられ、そうした分野に対し、アルゴリズムならびにソフトウェアを介し、既存のユースケースの改善が求められることとなるとする。
さらに、エッジでの演算処理能力を高めるためにASICやマイコンの使用が進むが、それにより機能も追加されるためにシステムとしての価値が向上することとなるとする。そのため、これまで価格が低下する一方であったMEMS市場に価格上昇の機運をもたらす可能性もあるとしている。
MEMS製品の付加価値を高める今後の動向
YoleのMEMS市場動向調査担当のEric Mounier氏は「各MEMSサプライヤには独自の戦略がある。例えばKnowlesは、DSP用オーディオプロセッサを追加することで、Google Pixel 3からGoogle Pixel 4へとスマホの価値を高めることに貢献している。Knowlesは通常どおりMEMSマイクを販売しながら、処理機能を追加することで、Googleに販売するシリコンの価値を高めることに成功した」と高付加価値化の一例の紹介をしている。
また同氏は「他のプレーヤーは、クライアントのアプリケーションのユースケースを、より優れたアルゴリズムとソフトウェアで実現する追加機能で高める試みをしている。例えばBoschはQualcommと協力しており、STは慣性センサに機械学習コアを追加している。エッジAIは、バリューチェーンを高め、多くの付加価値をつける点で魅力的である。Imerai、Aspinity、Syntiant、Cartesiamなどの新興企業がすでに取り組んでおり、これがMEMSの次のステップになることは確実である」と述べている。