さくらインターネットは8月4日、衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」を活用したサービス事例などの紹介を行うためオンラインイベントを開催した。同イベントには、さくらインターネットのほか、駐車場予約アプリ「akippa」を運営するakippa(以下、アキッパ)、AI・ディープラーニング技術のコンサルティングと開発などの事業を展開するRidge-i(以下、リッジアイ)、シャープの3社が参加した。

テルースは、同社の大規模ストレージを活用して衛星が取得したデータの分析・解析などを行うコンピューティングプラットフォーム。同社が経済産業省から「政府衛星データのオープンアンドフリー化・データ利活用促進事業」として委託され、2018年7月31日より提供している。

企業の衛星データ活用例

オンラインイベントでは、開発中のテルースの衛星データ活用例が紹介された。

アキッパが提供しているアプリ「akippa」は、全国の空いている月極や個人の駐車場、空き地などの遊休地をネット予約し、駐車場として一時利用できるシェアリングサービス。2020年7月現在、全国に累計37,000拠点の駐車場が登録されている。

  • 駐車場シェアリングアプリ「akippa」サービス概要

しかしアキッパでは、需要に対して十分な駐車場数が確保できておらず、新規の遊休地を見つける際、営業が直接現地に行って開拓するため、多くの時間を費やしてしまう課題があったという。

アキッパ Marketing Office 兼 Active Business Operation Group グループ長 田中大貴氏は「新型コロナの影響で現在は需要が下がっているが、プロ野球試合やアーティストのコンサートなどのイベントがある際には、会場周辺の駐車場の需要は高くなる。足で稼ぐ営業は時間コストが大きいので、効率よく空きスペースを探す方法を模索していた」と、テルース導入の背景を語った。

  • アキッパ Marketing Office 兼 Active Business Operation Group グループ長 田中大貴氏

上記課題を解決するためアキッパは、さくらインターネットとリッジアイと共同で、新たに駐車場として活用できる遊休地を見つける新しい手法として、テルースの衛星データとリッジアイの機械学習・ディープラーニング技術を活用し、特定エリアの「自動車駐車場用スペースの候補を自動検出するプログラム」を開発している。

2019年10月から2020年2月に行われた福岡・札幌での実証実験では、約75%の精度を実現したという。

  • 福岡(左)と札幌(右)の衛星データの解析結果

田中氏は「プログラム開発において、精度よりも網羅性を重視した。網羅性100%での精度75%であるから、新規スペース開拓にかける時間コストもかなり削減できると考える。また、駐車場数などが定量的に把握できるといった二次産物も得られた。」と述べた。

しかしながら、田中氏によると同プログラムの改善点はいくつかあるという。

「駐車場の空き状況確認機能や、遊休地所有者の情報確認機能などが備わればアキッパにとって最高のツールとなる。」(田中氏)

アキッパは今後、同プログラムの本格的な活用を目指し、福岡・札幌を皮切りとして全国への展開を検討しているとのことだ。

衛星データの画像解像度の重要性

一方で、衛星データの解析度を向上させることも重要な課題となっている。アキッパの導入事例においても、衛星データの解析度が高くなれば、実証実験の精度もさらに高くなるだろう。

シャープでは、8K(※1)システム・ソリューションを開発・提供するための8K Labを社内で立ち上げており、低解析度の画像をより高解析度な画像として作り出す技術「超解像」を開発している。シャープは、超解像技術をテルースで利用できるように、衛星データ向けの最適化を実施し、さくらインターネットに提供すると発表した。

シャープは、超解像により分解能6mの衛星データから分解能3mの画像データを疑似的に生成でき、安価なリモートセンシングサービスの実現につながると説明した。

  • 衛星データの超解像

しかし、超解像をテルースの衛星データに活用していくためにはいくつか課題があるという。シャープ 研究開発事業本部 通信・映像技術研究所 第三研究室 部長 伊藤典男氏は以下のように説明した。

「超解像の深層学習には、低解像度画像と高解像度画像のペアを必要とするが、衛星データの実画像には対応する高解像度画像がない。また、高解像度画像とその縮小画像ではペアを作ることは可能だが、縮小画像は実画像と大きく特性が異なってしまう。」(伊藤氏)

  • シャープ 研究開発事業本部 通信・映像技術研究所 第三研究室 部長 伊藤典男氏

上記課題を解決するためにシャープでは、実画像の特性を有した低解像度画像を疑似的に生成し、その低解像度画像と高解像度画像とのペアを作るという開発をしている。これにより、本物らしさを考慮した超解像度学習が可能になるとのことだ。

  • 超解像適用(実画像の特性を考慮)の例

伊藤氏は「空からデータをみたいというニーズが高まってきており、ドローンだけでなく衛星データも企業にとって身近なものになりつつある。今後は、解析度についてだけでなく、衛星データの撮影頻度の向上など、テルースの未来をより良いものにするために、みなさんと議論を進めたい」と、今後の展望を示した。

(※1):解像度が7680×4320画素。ちなみに4Kは、3840×2160画素。