米国航空宇宙局(NASA)とボーイングは2020年7月8日、昨年12月に発生した、新型宇宙船「スターライナー」の無人試験飛行におけるトラブルの調査を完了したと発表した。
改善勧告を受けた項目は80か所にもおよび、ボーイングでは対処を行ったのち、2020年後半にも再度、無人試験飛行に挑むことを計画している。
スターライナーのトラブル
スターライナー(Starliner)は、ボーイングが開発している有人宇宙船で、2019年12月20日、無人の飛行試験「OFT(Orbital Flight Test)」のため宇宙へ飛び立った。
当初は8日間かけてさまざまな試験を行い、国際宇宙ステーション(ISS)にドッキングまで行う計画だったが、打ち上げ直後にトラブルが発生。予定していた軌道への投入ができず、ISSへのドッキングを断念した。飛行も2日間で切り上げることとなり、最低限の試験を行ったのみで、12月22日に地球に帰還する事態となった。
帰還後の調査で、まずスターライナーのコンピューターが、ミッションの経過時間を間違って認識したことが判明。その結果、予定していたスラスターの噴射が行えず、地球を回る軌道への投入に失敗。その後、地上からのコマンドで修正されたものの、それまでに大量の推進剤を浪費したことから、ISSにドッキングすることができなくなった。
また、ソフトウェアの欠陥により、大気圏再突入の直前、宇宙飛行士が乗るクルー・モジュール(カプセル)と、サービス・モジュール(機械船)を分離した際に、スラスターが間違った向きに噴射される可能性があったことも判明。最悪の場合、カプセルとサービス・モジュールが衝突し、姿勢が乱れたり、耐熱シールドを破壊し、再突入が失敗に終わったりする危険があったとされる。
さらに、宇宙船から地上に向けた通信リンク(ダウンリンク)が断続的になるトラブルも生じており、これにより地上から宇宙船にコマンドを送ったり、制御したりする運用に影響が出たという。
こうしたトラブルを受け、NASAとボーイングは共同で調査を実施。80項目に及ぶ改善勧告を作成した。
勧告の全リストは機密により非公開とされているものの、試験やシミュレーションの追加や強化を行うこととされたのが21項目、プロセスと運用の改善が35項目、ソフトウェアの修正についてが7項目、要求事項が10項目、知識獲得とハードウェアの修正が7項目とされる。
両者の調査チームはまた、技術的な原因だけでなく、ボーイングとNASAのそれぞれ、また両者間における組織的な原因についても調査を行い、提言を行っている。
ボーイングは今年4月、2回目の無人での飛行試験「OFT-2」を行うことを表明しており、それまでにこれらの勧告を実施することになるという。現時点で、OFT-2は今年後半に予定されているが、具体的な日時については未定となっている。
なお、OFT-2にかかる費用はボーイングが負担するという。
NASAはまた、仮にOFT-2が今年末までに実施されるなどし、今後の開発や試験が順調に進んだ場合、有人での飛行試験は2021年の春ごろに実施できるだろうとしている。
スターライナー
スターライナーは、ボーイングが開発している有人宇宙船で、NASAとの契約に基づいて、ISSへ宇宙飛行士を輸送することを目的としている。
宇宙船はいわゆるカプセル型で、クルー・モジュールと呼ばれる宇宙飛行士が乗り込む部分と、スラスターやタンク、バッテリーなどが収められたサービス・モジュールの2つから構成されている。全長は約5.0m、直径約4.5mで、同じカプセル型の宇宙船であるアポロよりは大きく、オライオンよりは小さい。
クルー・モジュールには最大7人の宇宙飛行士が搭乗でき、耐熱シールドなど以外の主要な構造物は、最大10回の再使用を可能としている。
サービス・モジュールには、発射台上や飛行中のロケットから脱出する際に使う4基の強力なスラスターのほか、姿勢制御や軌道変更に使うスラスターが集まったポッド、そして太陽電池などを装備している。
宇宙船には最大7人の飛行士が搭乗でき、単独で約2か月間、ISSなどにドッキングした状態では210日間にわたって宇宙に滞在できる。
米国は2010年以降、引退するスペース・シャトルの後継機として、そしてISSへの宇宙飛行士の輸送を民間にアウトソーシングするため、ボーイングとスペースXに資金を提供し、宇宙船を開発させている。とくにシャトル引退後、米国の宇宙飛行士はISSに行くために、ロシアの「ソユーズ」宇宙船に依存しており、その脱却に向け、民間宇宙船の完成は急務となっている。
ボーイングが足踏みしている一方で、スペースXが開発している「クルー・ドラゴン」宇宙船は、昨年3月に無人での飛行試験に成功。そして今年5月には、2人の宇宙飛行士を乗せ、初の有人での飛行試験に飛び立ち、現在ISSにドッキングしている。地球への帰還は8月2日に予定されている。
クルー・ドラゴンは今年9月から、本格的な運用に入り、定期的に宇宙飛行士を輸送するミッションが始まる予定となっている。
参考文献
・NASA and Boeing Complete Orbital Flight Test Reviews | NASA
・Boeing: CST-100 Starliner