日立製作所は7月20日、帝人と新素材の研究開発におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に向け、協創を開始すると発表した。帝人は中期経営計画において、データ利活用による素材開発の高度化を掲げ、デジタル技術を活用した、研究開発スピードの向上と開発力強化に向けた検討を進めており、今回の日立との協創は、取り組みの一環となる。
今回の協創において、両社は日立のLumadaのソリューション・技術を活用し、各種データの一元管理が可能な統合データベースを中核として、マテリアルズ・インフォマティクス(MI、蓄積したシミュレーションデータや実験データを分析し、材料の構造と性能の相関関係を迅速に見い出すことで新材料や製品の研究開発を促進するための手法)を加速させる。
また、研究者間で研究手法やノウハウを最大限利活用するためのサイバーフィジカルシステム(CPS、実世界にある多様なデータを収集し、サイバー世界でデジタル技術などを用いて分析・知識化し、それをフィジカル側にフィードバックすることで付加価値を創造する仕組み)を共同で構築する。
これにより、新たな研究知見の獲得や迅速な新素材の研究探索を可能とするなど、研究開発のさらなる高度化・効率化を目指す。また、昨今の新型コロナウイルスの感染拡大により、人々の生活様式や企業活動が大きく変化する中でウィズコロナを前提としたニューノーマルの時代において求められるデジタル化の潮流をとらえ、両社でデータ駆動型の研究開発に向けた新たな枠組みを検討する。
今回の協創開始に先立ち、日立のITコンサルタントとUXデザイナーにより、課題抽出や対策立案を行うワークショップを重ね、データ利活用とシステム基盤の導入に向けた検証を行っている。先行検証では、業務要件とシステム要件の両面から設計・構築を行い、データ収集効率の向上やMIでさらなる研究開発の加速など、一定の効果を確認できたことから、研究開発を推進するためのDX実現に向けたグランドデザインの検討を開始。
本格的なMIの導入推進に加え、MIの加速に向けてベースとなる、研究者・組織間での研究手法や研究データ、ノウハウの共有・利活用するための統合データベースを中核にDX加速のためのシステム基盤を構築する。
具体的には、研究者と技術の関連性を社内技術情報や社外の特許情報などのテキストデータをもとにテキストマイニングを用いて加工・抽出し、蓄積する。「誰が何を知っているのか」「どこにどんな業務の経験者やエキスパートがいるのか」など、研究者と技術の関係性を可視化し、人的リソース情報を統合データベースで一元的に蓄積・検索できるため、業務の効率向上に寄与するという。
また、実験データを管理する機能で実験室や分析室など複数箇所で生成する実験データや実験条件などのメタデータの関係を紐付け、データを構造化し、統合的な実験データの解析を支援するほか、単語抽出AIを組み込むことで、特許公報から材料開発に必要なデータや図表データを自動で高精度な抽出を可能にしていく。
加えて、AIにより電子顕微鏡などの画像から素材の成り立ちなどを捉えられる形態指標を抽出する機能を提供し、データの意味付けや解釈の定量性をより高めることを目指すなど、MI実行のために不可欠となるデータ生成・整備を支援し、新素材の開発を加速する。
上位アプリケーションである日立の「材料開発ソリューション」と連動し、手軽な操作でAIなどを活用したデータの多角的な分析や三次元でのグラフィカルな可視化が可能な分析環境を提供することに加え、MIの実績を有する同社のデータサイエンティストがきめ細かな分析支援を行うことで、MIを用いた開発手法の確立や新素材の開発を加速するとともに、素材開発に役立つデータの取り扱いに長けた人財の育成にも寄与するとしている。
そのほか「R&Dポータルサイト」を新たに構築し、統合データベースに蓄積された情報や各部署の技術・ノウハウを可視化することで、研究者と部署など人や組織・技術の関係性を紐づけ、研究開発の効率向上、開発スピード向上につなげる。
同ポータルサイトではチャット機能を備え、研究者同士のコミュニケーションの活性化も期待できるほか、社内外の会議でのやり取り(音声データ)を、自動的にテキスト化する機能も取り込み、議事録など書き起こしにかかる時間を削減するなど、専用ポータルから迅速なノウハウ共有が可能だという。
また、研究者がその研究活動で得た知識(暗黙知)を効率よく整理し、その知識を起点にした新たな着想を示唆するなど、統合データベースに記録された研究データをAIで分析し整理・着想をガイドする機能の検証を行い、研究成果のさまざまな分野での応用やさらなるイノベーションの加速を支援する。