TISと日本マイクロソフトは7月8日、ヘルスケア業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に向けて連携すると発表した。両社は、パーソナル ヘルス レコード(PHR、個人の健康・医療・介護に関する情報を健康と医療の質の向上を目的に一元的に保存する仕組み)分野においてヘルスケア情報の取り扱いで要求される各種ガイドラインに準拠したクラウドベースの技術を「ヘルスケア リファレンス アーキテクチャー」としてパートナー企業に提供し、システムやデータの最適化、イノベーションを支援するという。

現在、多くのヘルスケアサービスが民間企業から提供されており、特にPHR分野では膨大なデータが生み出されていることに加え、行政も健康寿命の延伸に向けて、こうしたPHRの活用を促進させる仕組みが検討されている。

バイタル・運動情報を取得するスマートウォッチや、特定の疾患の治療、栄養管理を行うスマートフォンアプリ、お薬手帳・母子手帳などのEHRデータ(Electric Health Record、電子健康記録)を個人に見せるためのサービスなど、個人のヘルスケアデータ収集・管理には進展が見られるものの、それぞれのデータは分散して管理され、点在している状況となっている。そのため、個人、国、医療機関にとって価値ある重要なデータであるにもかかわらず、データの統合・分析やデータを元にした総合的な判断が難しいなど課題があるという。

そこで、両社ではヘルスケアサービスにかかわる民間企業がガイドラインを参照した標準仕様においてサービス連携やデータ流通を可能とするため、行政や臨床学会が求める標準化ガイドラインを参照したPHR分野におけるヘルスケア リファレンス アーキテクチャーの提供に加え、「ヘルスケア リファレンス アーキテクチャー技術者育成プログラム」の開始、社会的課題解決に向けたヘルスケア エコシステムの活性化を実施する。

同リファレンス アーキテクチャーは、Microsoft Azureを利用したヘルスケアサービス開発に必要となるシステム共有部分を定型化したものとなる。

ヘルスケア業界向けサービス提供者に対する特徴としては、PHRで求められるセキュアで統一された基準でのシステム構築が可能なほか、システム構築期間を短縮することで運用および開発コストの削減ができるという。また、臨床関連の6学会(日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本動脈硬化学会、日本腎臓学会、日本臨床検査医学会、日本医療情報学会)による「生活習慣病コア項目セット集(第2版)」および「生活習慣病自己管理項目セット集(第2版)」と、経済産業省の「健康情報等交換規約定義書」を参照したサンプルプログラムの利用を可能とし、すでにGitHub上で公開されており、無償で利用できる。一方、ヘルスケア業界にとっての特徴は、同リファレンスアーキテクチャーの提供を通して、PHRの標準化を推進し、相互運用性を向上、データの有効活用を促進するという。

技術者育成プログラムは同リファレンスアーキテクチャーを理解し、技術活用できる技術者の育成を目的に7月下旬から開始する。同リファレンスアーキテクチャーのコンセプトから、国際標準規格でもあるHL7 FHIRの情報提供、AIやIoTをはじめとした先進テクノロジを活用したシステム構築や実装に至る総合的なトレーニングを提供し、TISはトレーニングコンテンツの開発に協力する。

エコシステムの活性化については、ヘルスケア業界向けにサービスを提供される顧客のPoC(Proof of Concept、概念実証)や、PoCをきっかけとした事業化に数多く携わることで、PHR取扱の標準化への貢献を目指す。さらに、活動を通じて蓄積したノウハウから同リファレンスアーキテクチャーの拡充と普及、PHR取扱の標準化を進めていく考えだ。