庭木としてよく見かける常緑低木「キャラボク(伽羅木)」に共生するカビから得られる化合物「FE399」を、新たな手法で人工的に合成することに成功した、と東京理科大学の研究グループが発表した。FE399は大腸がんなどの細胞の増殖を抑えることで知られており、この物質や手法を手がかりに、新たな抗がん剤の開発が期待されるという。

細胞では通常、がん抑制遺伝子が異常な細胞に自死(アポトーシス)を促すことで、がんを抑えている。この遺伝子が変異して正常に働かないと、がん細胞が死を回避して増殖を繰り返す。大腸がんなどは、がん抑制遺伝子の一種の「p53遺伝子」が変異することで起こることが分かっている。

FE399は、このp53の変異によってできるがん細胞にアポトーシスを促して増殖を抑える化合物。庭木や垣根などに広く使われるキャラボクの葉に共生するカビの1種の培養物から得られるが、詳しい性質や立体構造が分からないことが壁となり、抗がん剤として活用するための研究は進んでいなかった。

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    カビの一種「アスコキタ」から得られる化合物FE399の模式図(東京理科大学提供)

そこでグループは独自に開発した試薬「MNBA(2-メチル-6-ニトロ安息香酸無水物)」を用いた。窒素を活性化する「マクロラクタム化」と呼ばれる反応を利用することで、FE399を人工合成できた。

従来広く使われてきた試薬を用いた手法だと、反応の過程で分子の構造が一部反転してしまうなどの問題があった。MNBAを使うことでこの問題を回避し、FE399の構造を解明した。MNBAによる窒素の活性化を利用し、天然物を全合成したのは世界初という。

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    MNBAを使ってFE399を人工合成した過程の模式図(東京理科大学提供)

p53遺伝子は大腸がんや食道がん、一部の乳がんの細胞で増殖を抑制することが知られている。グループは今後、他のさまざまながんでFE399がどの程度効くのかなどを調べていく。

グループの同大理学部の椎名勇教授(有機合成化学)は「今回のFE399がリード役となって今後、さまざまな類縁の化合物が合成されることが期待される。それを通じ、新たな抗がん剤の開発の可能性がある。優れた試薬としてMNBAが活用できることを示したのも大きい」と述べている。

グループは椎名氏のほか同大研究推進機構総合研究院の殿井貴之研究員らで構成。成果は欧州の化学誌「ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー」の電子版に6月8日に掲載され、理科大が同12日に発表した。

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