長谷工コーポレーションとアウトソーシングテクノロジーは7月6日、日本マイクロソフトと連携し、デジタル技術を活用した建設・不動産業界における生産性改革を推進すると発表した。
その一環として、両社はマンションの外壁タイル打診検査のためのMixed Reality(MR:複合現実)ソリューション「AR 匠 RESIDENCE」を共同開発した。「AR 匠 RESIDENCE」は今年7月より、長谷工リフォームが建物診断を行う関東エリアに導入し、順次、全国へ活用を広げていく予定。
長谷工コーポレーション 取締役常務執行役員の楢岡祥之氏は、建設現場における課題として、技術者の成熟度に依存する傾向が高い中、熟練技術者の高齢化・減少の傾向があることに加え、安全管理やコスト、品質管理など、顧客の要求水準が高まっていることを挙げた。
同社では、こうした課題を解決するため、現場の生産性改善に着手することになった。マンションの外壁は、劣化などによる剥落リスクがあることから、定期的なメンテナンスが必要とされている。平成20年の建築基準法施行規則の一部改正では、10年ごとにタイル貼り、石貼り、モルタル等の歩行者等に危害を加えるおそれのある部分の外壁について全面打診調査が義務付けられている。
長谷工グループでは、建物維持・メンテナンスに対応する労働者不足や昨今の新型コロナウイルス拡大防止の観点からも、建物診断時のファーストラインワーカーを極力減らすことが可能なことから、マンションの建物診断の現場にMRを導入することにしたという。
具体的には、外壁タイル打診検査における「外壁点検、診断の図面化の工数が大きい」「建物診断の報告書作成業務の割合が大きい」「報告書提出まで一定の時間を要している」といった課題を解決するため、Mixed Reality技術を活用した「AR 匠 RESIDENCE」が開発された。
「AR 匠 RESIDENCE」は、ダッシュボード (Webブラウザで動作するアプリケーション)、端末アプリ (HoloLens 2 にインストールされるアプリケーション)、レポート出力機能から構成される。
これまでの検査は2名1組で行い、 1人が打診検査を行い、もう1人が図面を持ち、外壁の浮きやクラックの記録と写真撮影を行っていた。 検査後、事務所で指摘箇所を図面にプロットし写真の照合、集計などの報告書作成を行う必要がある。
これに対し、「AR 匠 RESIDENCE」を活用した検査では、現場の作業員(検査者)1名がマイクロソフトのヘッドマウントディスプレイ「HoloLens 2」を装着して点検記録を行う。報告書は「AR 匠 RESIDENCE」から入力したデータから自動で生成されることから、建物診断業務全体の約30%が削減されたという。
日本マイクロソフト 執行役員 常務 クラウド&ソリューション事業本部長 兼 ワークスタイル変革推進担当役員の手島主税氏は、「当社のCEOであるサティア・ナデラは『2年分のデジタルトランスフォーメーションが、2カ月で起きた』という発言をしたが、新型コロナウイルスによって、デジタル変革が急速に進んだ。こうした中での最も大きな変化は、人の行動の変化と言える。今、われわれが求められているニューノーマルにおいて、マイクロソフトは『Remote Everything』『Automate Everywhere』『Automate Everywhere』という3つの側面において貢献したいと考えている」と述べた。
具体的には、あらゆることをリモートでできるようにすることで、距離の制約をなくし、むしろ距離を価値に変えていくことを目指す。また、人が業務を止める要因にならないよう、自動化を進めていく。「業務の省人化、効率化を実現するとともに、人との接触を最小化する」(手島氏)
手島氏によると、新型コロナウイルスが登場してから、MRに関する問い合わせが増えているが、中でも、建設・不動産・製造・医療業界において、作業支援・トレーニング・遠隔支援に対する需要が拡大しているという。
現在、長谷工では関東エリアの既存のマンションの外壁タイル打診検査に「AR匠RESIDENCE」を活用しているが、2021年頃を目途に妻壁や足場上などへ適用範囲の拡大を進め、建物診断から修繕工事中さらには建設工事中の施工・点検などと活用を広げていくことを計画している。楢岡氏は「新築工事の検査にも応用できる可能性は高いと見ている」と語った。また、劣化状況の分析など、クラウド上に収集するデータの活用も進めていく。一方、アウトソーシングテクノロジーは、AI技術を活用して点検データの傾向分析や外壁劣化検出も予定している。
さらに、楢岡氏は、MRが働き方改革に与える影響について、「熟練技術者が不足していることから、現場に行って作業を行うことが難しくなっている。しかし、MRを活用することで、熟練度が低い技術者が現場で作業を行い、熟練技術者がリモートでサポートすることで、業務を遂行できるようになる。MRは、建築現場の働き方の課題を解決できる可能性を持っている」と語っていた。