政府はGIGAスクール構想によって、2023年度までに生徒一人1台のコンピュータ環境を実現しようとしているが、東京都八王子市にある工学院大学附属中学校・高等学校では、6年前から1人1台のコンピュータ環境を整え、授業で活用している。
中学校では、5年前から入学時に一人1台iPadを購入。高校では2年前からWindows PC(Windows 10)をBYODによって一人1台環境を実現している。いずれも、学校からの貸与ではなく、個人で購入(用意)する形式を採っている。これによって、6年目の今年から、中学校、高校ともに全員一人1台の環境が整った。
端末は生徒が毎日自宅に持ち帰り課題学習で利用している。管理はすべて生徒自身が行っている。以前はPC教室に貸与PCを100台ほど用意し、情報教育の授業などを行っていたが、現在は一人1台環境が整ったため、パソコン教室は廃止したという。
工学院大学附属中学校・高等学校 副校長 島田浩行氏は、「パソコン教室で情報教育を行うだけでなく、どの教科においてもコンピュータを活用できる土台を作ってきました」と語る。
中学校でのiPadの活用方法について、工学院大学附属中学校・高等学校/高等学校 教務主任(英語担当) 田中歩氏は、「iPadはどの教科においても使っています。iPadはアプリが豊富に揃っているので、ロイロノート・スクールというアプリを軸に、英語はCambridge Englishスクールに認定されているため、中学校でケンブリッジ大学出版発行の教材『Uncover』、高校でもケンブリッジ出版の教材『UNLOCK』を使用し、映像を使った英語学習を行っています。これからの時代は、子供たちの創造性を育んでいかないといけないと思います。そこで、iPadを自分を表現するツールとして活用しています。iPadのメリットはビデオが簡単に創ることができる点で、それをどこかにアップロードし、フィードバックをもらって修正して新しいものにするというサイクルをどの教科においても行っています」と説明する。
同校では、アクティブラーニングといわれる、生徒が能動的に学ぶ授業を目指しており、端末は生徒が調べ、グループでディスカッションし、発表するという協働学習を中心に活用しているという。
「協働とクリエーションの架け橋にiPadを利用しています。英語を学ぶのではなく、英語で学ぶためにiPadで何ができるかを考えたとき、iPadは無限の可能性があります。かつては、英単語は単語帳で学びましたが、現在では「クイズレット(Quizlet)」というアプリを使ってクイズ形式で行っています。ゲーム性と興味関心をiPadと組み合わせて使うと効果は全然違います。そのほか、協働学習にはわからない子にわかる子が教えてあげられるというメリットもあります。大人がわからない点を教えるよりも、子どもが教えるほうが、教える側も教えられる側も圧倒的に伸びると思います。実際に、理科が得意な生徒が中間試験対策としてクイズレットで問題を作り、生徒全員に配信するといったことも行っているようです。この場合、どうしたらわからない子が理解できるのかを考えて問題を作る必要があるため、作成する生徒にとっても学びになっていると思います」(田中氏)
また、Microsoft 365のFormsを使ってテストも作成して実施しており、この場合、結果をCSVで得られるため教員は重宝しているという。
一方、高校ではPCを活用しているが、iPadに比べ活用の幅が広がるという。
「パソコンでは簡単に動画が作れるというiPadの利便性は失われましたが、iPadでは難しいWord/ExcelといったOfficeの活用を行っています。例えば、英文を複数のセルに分割してそれぞれの担当を決めて共同和訳させたり、PowerPointの作品を共同で創らせたりしていますが、このあたりはパソコンならではだと思います。また、OfficeのOneNoteでメモをとったり、日直日誌を作ったり、使い方の幅は広がっています。生徒による修学旅行のプロジェクトがあったのですが、そこでは、OneNoteで内容をシェアしながらZoomで議論していました。子供たちが自分たちだけで何かができるというのは、ICTならではだと思います。これがなかったら、『先生にこの時間、何年何組の教室を貸してください』というお願いして行う必要があります。半面ICTのデメリットは、時間の区切りがなくなる点で、夜9時過ぎに先生に質問してくるとか、このあたりはちゃんと教育しておく必要があると思います」(田中氏)
「高校では1年かけて1つのテーマについて調べて論文にまとめ、発表する取り組みを行っていますが、論文となれば、Wordもそうですが、Excelも必要になります。このあたりもPCのメリットだと思います」(島田氏)
田中氏は、こういう使い方は大学生の先取りのような体験になると述べる
Zoomを活用したオンライン授業も開始
また、新型コロナウィルスの影響で休校を余儀なくされた3月には、Zoomの導入を検討。4月から授業での活用を開始した。まず、4月はZoomの操作に慣れる期間と位置づけ、4月13日から朝と放課後のホームルームで利用。その後、順次、主要教科へと利用を拡大。6月には、1日6時間の授業をオンラインで行った。
「最初は、Zoomのログインの方法もわからないという先生もいましたが、マニュアルを配布することで、4月13日からすべての教室でホームルームを実施できました。生徒に対してもマニュアルを作って配布しましたが、とくに問題はなく、スムーズに行えました。自宅にWi-Fi環境がない生徒もいましたので、校長名の文書を配布して保護者に準備をお願いしました。6月現在では、Zoomに参加できない生徒はいません」(田中氏)
また、Zoomの使い方については、マニュアル配布だけでなく校内で研修会を開催したほか、教員間で利用している「サイボウズOffice」でノウハウを共有するなどして、先生のスキルを上げていったという。さらに、授業の様子を公式ブログにも公開した。
「私が先生方からオンライン授業の様子を聞いて、随時ブログにアップしていました。それが、他の先生の刺激になっていたと思います。これによって、『どういう風にやるの?』と、フランクに聞けるような雰囲気が生まれました」(田中氏)
そのほか、Edmodoというコミュニケーションアプリを利用して、課題の提出状況などを可視化して全教員で共有したり、場合によっては生徒にも公開し、自分だけが出していないことを生徒に意識させたりしたという。ただ、それでも課題をやらない生徒もいるので、Zoomで面談を行いフォローした。
同校では4月からZoomによるオンライン授業を開始したが、先生が一方的に講義するようなオンデマンド配信では意味がないと田中氏は語る。
「私たちがどんなにがんばってもオンライン授業に特化した人たちの真似はできないと思います。その代わり、われわれはメンタル面をフォローしたり、Zoomのように双方向で会話ができる授業を心掛けています」(田中氏)
Zoomは行事でも活用
Zoomは学校行事でも活用しており、国際的私立学校連盟であるRound SquareのイベントをZoomで実施。5月には同高主催のイベントを開催した。このイベントには、パキスタン、コロンビア、インド、ヨルダン、オーストラリア、アメリカ、ペルーなど世界各国15校から約70名が参加したという。
また、5月には高校3年生の保護者会や学校説明会もオンラインで実施。学校説明会の出席者はこれまでより3割ほど増えたという。
GIGAスクール構想への対応
政府が進めるGIGAスクール構想では、一人1台の端末環境整備を支援する目的で、1台あたり45,000円の補助金が活用できる、しかし同校では、すでに一人1台の端末環境を実現しているため、政府の予算はネットワークの整備に利用していく意向だという。
「GIGAスクール構想の前からBYODによって、一人1台の環境を整えているので、高速、大容量のネットワーク環境をしたいと思います。大容量のネットワークが整備されれば、例えば、海外の学校との合同オンライン授業もさらに発展すると思います」(島田氏)