Infineon買収後のCypressはどうなったのか?

独Infineon Technologies AGの子会社となったCypress Semiconductorの日本子会社であるサイプレスセミコンダクタ- インフィニオンテクノロジーズグループは6月24日、記者説明会を開催し、新製品となる「Sempre Secure NOR Flash」を発表した。

今回、説明を行ったのは、Infineon Technologies, LLCのCEOであるSam Geha博士(Photo01)であった。このInfinion Technologies, LLCというのはInfinion Technology AGの子会社である。なぜ子会社を重ねたかというと、Cypressの買収にあたり、メモリ関連事業は別法人にするべしという政府当局からの指導があったそうで、そのためCypressのメモリ関連事業はすべてこのInfinion Technologies, LLCが継承する形になったそうだ。Geha博士は買収前はEVP, Memory Productsという肩書でCypressのMemory関連事業全般を率いており、今回の買収によってInfinion Technologies, LLCのCEOという立場になったそうである。

ついでにもう少し合併後の会社の動向を説明したい。今回の買収により、Infineon/Cypressは業界第10位の売上規模を誇る巨大企業になった(Photo02)。

  • Sempre Secure NOR Flash

    Photo02:Spansionの頃から見ると、なんかわらしべ長者の様に大きくなっていった気がしなくもない

もともとInfineonが産業機器や自動車などに高いシェアを持ちつつも、案外にCypressと製品ポートフォリオが被らないということもあり、合併後のラインナップは幅広いものとなる訳だが、それはそれとして新しい目標経営モデルとして

  • 通年の売上高増加率9%以上
  • 事業部合計の利益率19%
  • 投資対売上比率13%

を目指しているとする。

また今回の合併により、特にComputeやConnectivityが拡充されたことで、アプリケーションに必要なソリューションをワンストップで提供できる体制が整ったとしている(Photo03)。

  • Sempre Secure NOR Flash

    Photo03:Infineonはセンサやパワー半導体などアナログに関しては強いポートフォリオを持っているが、相対的にデジタルに関して弱かった部分がCypressの買収で補われた感はある。まぁ厳密に言えば若干被ってる(例えばTraveo IIとAURIX TriCoreとか)部分は無くもないのだが…

売上比率はこんな感じ(Photo04)。

  • Sempre Secure NOR Flash

    Photo04:Memory SolutionはAutomotiveの傘下にあるそうだ。理由は次のスライドで理解できた

ちなみにGeha博士によれば、NOR Flashのマーケットにおいて同社は2019年の数字ではNo.2だとしている。そのNOR Flashだが、半分以上を自動車向け、次いで通信と産業機器が占める形で、圧倒的に自動車向けに使われる用途が多い。また地域別に言えば、日本が全体の25%を占めるという高い状況が今も続いており、これもあって日本を引き続き重視しているとの事だった。

  • Sempre Secure NOR Flash

    Photo05:それだけ日系の自動車メーカーに採用されている、ということでもある

Semper Secure NOR Flashはどこで使われるのか?

ということで今回の本題。Semper Flashそのものは2018年6月に発表されている製品で、車載および産業機器向けに、機能安全や自動車グレード安全規格(AES-Q100)を満たすといった特徴を持ったNOR Flashである。

ただ、昨今ではセキュリティへの懸念が多いのはご存じの通り(Photo06)。

  • Sempre Secure NOR Flash

    Photo06:これはまぁ良く知られた話で、別に車に限らず現代はどんな電子機器でもサイバーアタックを喰らう可能性があるので、そのための防御は必要とされる

車載にしても産業機器にしても、メインとなるSoCの外部に多数のNOR Flashなどを繋ぐことが多いため、これらの安全性を考える必要がある(Photo07)。

  • Sempre Secure NOR Flash

    Photo07:ここでいきなり"Semper Secure NOR Flash"と書いてあるため訳が判らないが、今まではここはNon SecureなSemper NOR Flashが使われており、これがPhoto06の様な攻撃のターゲットとなりやすかった、という話である

もう1つ、Geha博士が挙げたのは、特に自動車向けでは今後eFlashから外部のSecure Flashに切り替わっていくとしたことだ(Photo08)。

  • Sempre Secure NOR Flash

    Photo08:例えばTSMCとeFlashを共同開発しているルネサスの様なベンダは、こうした先端技術を駆使して引き続きeFlashで行けるかもしれないが、すべてのベンダがこうした恩恵に預かれる訳でもなく、そうしたベンダが外部Flashに逃げる方向に行くのはある意味妥当ではある

要するに機能の肥大化やOTA Updateの必要性などから、より大容量のFlashが必要とされるが、一方でSoCそのものは28nmや14/16nmのFinFETに向かっているものの、eFlashはプロセスの微細化に対してそれほどScaleしないため、効率が悪くなるという話である。まぁこのあたりは論じ始めると、FD-SOI+MRAMとかも出てきてしまうので単純に結論は出せない話であるが、確かに外部Flashの必要性が高まっているのは事実だ。

こうしたニーズに対応すべく今回発表されたのが、Semper Secure NOR Flashである。特徴はFlashそのものにもRoTが搭載されていることである(Photo09)。

  • Sempre Secure NOR Flash

    Photo09:信頼性などは従来のSemper Flashでも提供されてきた訳だが、新しく追加されたSecurity部分についても当然機能安全を満たす必要がある訳で、2年もかかったというのはこのあたりに時間を要したのかもしれない

内部構造はこんな感じ(Photo10)である。以前のSemper Flashの構造と比較すると、オレンジ色の部分が新しく追加されたものであることが判る。

  • Sempre Secure NOR Flash

    Photo10:見比べると以前はあった"セクター保護"が無いが、これは機能が削られたわけではなく単にブロック図から落ちてるだけの模様

もちろん何でもかんでもSemper Secure NOR Flashが必要と言う訳ではなく、Photo11のようなUse caseの場合にはSemper Secure NOR Flashを使うのが妥当とされている。

  • Sempre Secure NOR Flash

    Photo11:現時点では価格が未発表だが、普通に考えて値段が下がる事は無い訳で、なのでSecureである必要が無いものに関しては引き続き従来のSemper NOR Flashで対応することになる

なお、同社からはSDKも提供され、これを利用してTime to Marketの短縮が可能とされる(Photo12)。

  • Sempre Secure NOR Flash

    Photo12:これは当然Semper Secureに対応したもので、MISRA-C対応のドライバとかWolfSSLのライブラリ、暗号化モジュールのValidation Libraryなどもここに含まれている

Semper Secure NOR Flashは、まず256Mbit品が主要顧客向けに現在サンプル出荷中とされ、量産開始は2021年第2四半期の予定である。