ブライダル大手のノバレーゼは4月28日、緊急事態宣言解除後、結婚式場の見学・内覧にZoomやSkypeを活用するオンライン会議システムを全国の店舗で順次導入する、と発表した。
5月19日には緊急事態宣言が解除され、17県20カ所の施設でオンライン内覧をスタート。
コロナウイルスの問題が深刻化した2020年2~4月頃にかけて、同社では結婚式のキャンセル率は4~5%程度であり、他の年と変わらない水準だったという。
一方で、結婚式の日程変更は多く寄せられ、2021年の予約は例年にないほど埋まっている。しかし、新規の内覧予約は明らかに減少。「不要不急の外出自粛」が叫ばれた期間だったから無理もない。そんな中での挑戦だった。
普段通りの接客をオンラインに持ち込む
コロナウイルス感染拡大防止の影響で、サービス提供側は営業自粛を余儀なくされ、多種多様な業界が大きなダメージを受けている。ブライダル業界もそのひとつだ。
SNSには結婚式の中止や延期を決める人の投稿が溢れた。緊急事態宣言が出されてからは、結婚式場の見学・内覧を諦めた人もいる。
そんな中、緊急事態宣言発令前に、テレビ会議システムを試験導入し、オンライン内覧実施の準備を進めてきたのがノバレーゼだ。内覧希望者に式場の映像をリアルタイムで見てもらいながら案内する。
導入後、「リモートで式場見学」してもらうスタイルの接客を2件行い、2件とも受注に至ったという。そんな成功体験を経た後、緊急事態宣言発令後は全国の式場を休業にし、接客スキルの高いプランナー3名(※1)が在宅で、全国の式場を案内する「オンライン接客」に切り替えた。
※1「エグゼクティブプランナー」や「エキスパートプランナー」など、営業成績で年間MVPを獲得し、殿堂入りするなどした優秀な接客が評価されたメンバー
オンライン接客の申し込み数は堅調に増加し、緊急事態宣言の解除後からテレビ会議システムの本格導入に踏み切った。
「今回の事態で、“式場選びは現地に足を運んで行うもの”という、昔から続く価値観が変化する潮目を感じました。そこで弊社ではオンライン接客を始めたわけですが、デジタル機器や通信環境を整えることで、問題なく切り替えることができました。
ただ、形がオンラインになったとはいえ、行ったのは普段と変わらない、お客様に心地よく過ごしていただく接客です」
こう語るのは、施策を企画した同社 営業本部 営業戦略ディビジョン、ディビジョンマネージャーの諏訪真紀子氏。オフラインでやってきたおもてなしを、オンラインでも同じように行うということだ。
リアルタイム映像と写真をバランスよく使う「オンライン接客」を体験
ここでオンライン接客とはどのようなものなのか説明する。オンライン接客の中身を知るために、筆者もお客として体験してみることにした。“説明担当”を務めてくれたのは、営業本部エグゼクティブプランナーの佐藤希理子氏だ。
当日は事前に送られてきた、オンライン会議システム、Zoomの会議用URLをクリック。すると佐藤氏が画面の中で待ってくれている。
現地での接客でも、案内開始の15分前には待機しているが、Zoomでも同様で15分前からスタンバイしているという。
大阪在住で、西日本エリアを担当していた佐藤氏だが、現在は関西エリアの式場を担当。この日、佐藤氏は式場(この日案内してもらった「旧桜宮公会堂」)にいて、“撮影担当”を務める式場のスタッフとつもなぎ、筆者含めた2拠点でのZoom(ビデオ会議)となった。
挙式に関するカウンセリング→式場の魅力を3点ほどにまとめて簡潔に説明、という流れで案内が進行する。ここまでで15分程度。ひとつの式場を案内するのに、最長約2時間となる。
式場の見学・内覧が初めての人は、所要時間は1時間程度だと思っているケースが多いという。しかし、式場によっては3時間以上の長丁場になることも。
「人の集中力が続くのは2時間が限度です。それに現地での内覧と比べ、オンライン内覧だと“景色”があまり変わらないため、待ち時間を長いと感じやすい傾向があります。そのため、対面での接客以上にお待たせしない施策を皆で検討しました」(諏訪氏)
対面での接客で行っていたアンケートを省いたり、リアルタイムで現地の動画を見せながら、動画では説明し切れない部分は写真を見せて説明したりと、見学者の興味を引くコンテンツを提供する、といった工夫を行った。
会場の外観や内観、チャペル、披露宴会場と、まるで現地を歩いているかのような臨場感で、説明担当・撮影担当と2人1組での案内は続く。
「最高の画角についても、撮影者の立ち位置を研究し、会場ごとに落とし込みました。ぶれを防ぐカメラアングルのシミュレーションも念入りに行っています」(諏訪氏)
見学者である筆者は、現地のリアルタイム映像を「固定」し、会場の様子を大画面でウォッチ。時折、佐藤さんが会場写真を画面共有し、説明を補足してくれる。
披露宴会場でのスクリーンの上げ下げをはじめとした、式当日の“演出”体験も映像だからこそできることだ。一方で、会場の歴史や生花を置いた際のイメージなど、写真でしか示しづらいものもある。情報の見せ方を熟慮したプレゼンテーションを聞いているような感覚になった。
「リアルタイムの映像ではなく、事前に撮影した映像と写真を組み合わせて、説明すればいいと思われるかもしれません。しかし、同じ映像を流すのではなく、毎回現地とつないでその時々の映像を届けるのは、お客様に『今は私たちのために案内してくれている」と感じていただきたい、という思いがあります」(佐藤氏)
時期によって、また見学する日によって、会場の見え方は異なる。それを踏まえたきめ細かい対応だと感じられた。
過去の施策を活かした取り組みだから、難なく進められた
式場見学・内覧をオンラインに切り替えるにあたり、苦労したことやトラブルはあったかと聞くと、ほとんどないという。
背景には2016年、全国の式場案内や打合せが東京と大阪、横浜の3拠点でできる「出張ブライダルサロン」をスタートした経験があった。見学希望者がサロンを訪れると、全国の式場を映像や写真で紹介してもらえるだけでなく、テレビ電話で現地のプランナーとの打ち合わせも叶う。
遠方で結婚式をしたい、地元で結婚式を挙げたいが、式準備のために帰省するのが難しい…そんなニーズに応える場となっていたという。
「そのノウハウを活かしているため、今回実施しているオンライン接客も、難なく進めることができています。ブライダルサロン提供前は、オンラインでご案内しても、申し込みいただくのは式場を実際に目で見てからだろう、と思っていました。
ですが、写真と動画でのご案内のみで申し込みに至るケースも少なくなく、遠方の方、小さなお子様のいる方にも利用いただけるサービスとなりました。オンライン接客も同様の流れを辿っています」(諏訪氏)
通常時、つまり現地で案内した場合、成約する割合は現地での案内と比べて半数程度だという。オンライン接客がひとつの選択肢として定着すると、この数字はもっと上がっていくことだろう。
非常時になって初めて、事業をオフラインからオンラインへ、急に切り替えるのは困難だ。まずはできることから少しずつオンラインに移行するか、オンライン・オフライン両方でできる方法を模索するかなど、常時から備えておきたいものだ。