米SAS Instituteは6月16日(米国時間)、年次イベントのオンライン版「VIRTUAL SAS GLOBAL FORUM」を開催した。数年前からクラウドビジネスを進めてきたSASだが、今回米Microsoftとの提携を発表し、Microsoft Azureを優先クラウドパートナーにし、ビジョン「データがあるところにアナリティクスを」を進化させた。
同イベントは、当初3月に開催が予定されていた年次イベント「SAS GLOBAL FORUM 2020」のオンライン版となる。冒頭で、SAS共同創業者兼CEOのJim Goodnight氏は、新型コロナウイルス感染症(「COVID-19」)を受けてSASが行ったことを紹介した。
例えば、以前からの顧客だったCleveland Clinicと共同で、患者数、ベッド数、マスクや人工呼吸器などのPPE(個人防護具)を予測するモデルを開発した。このモデルは接触追跡などにおいても活用できるという。Cleveland Clinicと共同開発したモデルは、無償で公開している。
最大の目玉はMicrosoftとの戦略的提携
最大の発表となるのはMicrosoftとの戦略的提携だ。提携を発表したのは、SASのエグゼクティブ・バイスプレジデント兼COO兼CTOを務めるOliver Schabenberger氏だ。
提携は多岐にわたるが、以下のようなものが発表されている。
- Microsoft AzureはSASのクラウド顧客向けの推奨クラウドとなり、SASの「Viya」プラットフォームとAzureを深いレベルで統合する
- Microsoft顧客にSASがヘルスケア、小売、金融などの業界で持つ業界ソリューションや専門知識を提供する
- Azureに加え、他のクラウド(Dynamics 365、Microsoft 365、Power Platform)についてもSASのアナリティクスの統合を進める
- 共同で市場戦略を進める
目指すのは、SASの顧客のクラウド化の支援だ。SASのシニアバイスプレジデント兼R&DエンジニアリングのBryan Harris氏によると、同社の顧客のワークロードの93%がオンプレミスで稼働しているという。Microsoftとの提携により、SASの顧客はワークロードをAzureクラウドで動かすことが可能になる。
提携の内容を詳細に説明したMicrosoftのクラウドとAI担当エグゼクティブ・バイスプレジデントのScott Guthrie氏は、「単にSASのソリューションをAzureに載せるのではない。業界特化モデルなどのSASのアナリティクス機能をAzure、Dynamics 365などにネイティブに統合し、新たなソリューションを構築する」と語る。なお、AzureはFortune 500企業の95%が導入しており、「ハイブリッド型、インテリジェント、信頼性のあるクラウドで、顧客はその上にイノベーションを構築してデジタル化を加速できる」という。
Microsoft Azure上でViyaを利用しているMercy Health
SAS製品のMicrosoft Azureにおける利用は既に事例もある。オンプレミスでSASを導入していた米国でヘルスケアシステムを提供しているMercy Healthは、Azure上でViya環境を設定し、コロナ禍で地域の4施設、ライフサイセンスパートナー企業と感染症の流行を調べて、対応に役立てたという。
Microsoftとの提携は、SASが掲げる「アナリティクスの3原則」に基づくものだ。3原則を紹介したSchabenberger氏は、「データがあるところにアナリティクスがある」「アナリティクスの価値は単なるアルゴリズムではなく、データ主導で問題を一気通貫型で解決するところにある」「アナリティクスの民主化」と3原則を説明する。
民主化について、MicrosoftのGuthrie氏は共感を示し、「両社の顧客に向けてAIとアナリティクスを民主化する。2つの企業が集まることで、それ以上の価値を提供できる」と述べた。
SASはイベントに合わせて、KPMGと提携して顧客のクラウド移行を促進する「Cloud Acceleration Center」を構築することも発表している。同センターは、学際的なチームを結集し、高度な連携がなされたテクノロジーに対応した環境となる。
AIプラットフォームの次期版「Viya 4」も披露
なお、イベントでは2020年後半に発表予定のAIプラットフォーム次期版「Viya 4」についての説明もあった。Harris氏は「Viya 4」の特徴として、クラウドへのアーキテクチャをコンテナとマイクロサービス対応にした点を強調し、「単にソフトウェアをリフト&シフトしたのではなく、クラウドネイティブ向けに再開発した」と説明した。
アナリティクスカンパニーとして1976年に創業したSASだが、Schabenberger氏はこれまでを振り返り、「アナリティクスはクラウド、AIと機械学習のサポート、高度な自動化の受け入れ、と進化を続けてきた。そして、モデルの実装とガバナンスにフォーカスが移りつつある」と述べる。
デジタルトランスフォーメーションが継続することで、「企業はデータドリブンからさらに、モデルドリブンに進化する必要がある」と、話を締めくくった。